ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
Anniversary
「何がいいんですかね……」
毎年、この時期になるとカーくんはひどく悩む。しかし、悩むのも今日、五月二十三日、雷太の誕生日までだ。
「うーん……」
カーくんは、自分の部屋をぐるぐると歩き回る。歩き回ったところで答えが出るはずもないのだが、じっとしていられない。いつもなら、自分の机に腰を落ち着けて考えるだろう。パソコンで色々調べてみたりするかもしれない。しかし、雷太が絡むとカーくんの作業効率は極端に上がるか下がるかのどちらかになる。中庸はない。
「誕生日プレゼント、喜んで欲しいんですけれど」
何をあげても雷太は喜ぶだろう。そんなこと、カーくんは百も承知だ。
困り果てて、カーくんは誰かに聞いてみることにした。雷太本人に直接聞いてみてもいいのだが、サプライズで渡したい。雷太に聞いたこともあるのだが、「カーくんのくれるものなら、何でも」と言われてしまい、例年以上に大変だった覚えがある。銀河レンタルで屋外用プラネタリウムを借りて空一面の流れ星をプレゼントしたり、手作りのケーキを作ってみたりとカーくんも頑張っている。
階段を下りて、リビングを覗くと雷太と瓜二つの母、かすみがいた。
「あら、カーくん今からお出かけ〜?」
出かけるつもりはなかったのだが、かすみにのんびりと問いかけられて、
「ええ」
と、うっかり答えてしまった。そう言ってしまうと、出かけないわけにも行かず、駅へ向かって歩き出した。
五月下旬ともなると、日差しは強い。しかし、爽やかな風が頬をなでるのが気持ちいい。こんな陽気の日には公園で新緑を眺めながら、ぼんやり過ごしてもいいのかもしれない。手入れの行き届いた黒田家の庭の薔薇も満開で、甘い香りは家を包んでいるようだった。
「歩きながら考えましょう。一日ありますし」
秘書としての激務に追われているカーくんだが、今日だけはオフをどうにかしてもぎ取った。雷太優先主義というのがカーくんのどうしても譲れない部分である。
駅までの道すがら、こんなにのんびりした休日は久しぶりだなとカーくんは思った。こんなにも周りを良く見て歩いたのはいつ以来か。本当に自分に余裕がなかったのだな、と苦笑しつつ青く澄み渡った空を見上げる。電線で区切られた雲がゆっくりと頭の上を通り過ぎる。
駅前のデパートは平日の昼間のせいか、ほどほど空いていた。どの階のどの店に行っても、考えるのは誕生日プレゼントのことばかり。自分の買い物のことなど考えられない。折角来たのだから、自分の買い物も済ませてしまえばよさそうなものなのに。
隣に雷太がいたら楽しいだろう、とぼんやり考えた。好奇心に輝く瞳、目まぐるしく変わる表情……本当に、大切で仕方ないのだと自覚する。そうして、本屋の前を通り過ぎようとした時に、左手が急に重くなった。
「カーくんみーっけ!」
そう言ってカーくんを見上げているのは、紛れもなく雷太だった。学校帰りのため、紺色のブレザーにえんじ色のネクタイの制服姿だ。革の鞄を左手に持ち、右手でカーくんを捕まえている。
「え? 今日は早いんですか?」
思いがけない雷太の登場にうろたえるカーくんに雷太はけろりと答えた。
「中間テストで早帰り」
「そういえば、そうでしたね」
聞いていなかったわけではないが、プレゼントについて考えるので最近ぼうっとしていたためかすっかり忘れていたようだ。
「じゃ、一緒に家に帰ろうよ」
「は、はい……」
結局、プレゼントは買わないままにカーくんは帰路に着いた。どうしようかと思いながらも、雷太に引っ張られて家に帰ってきてしまった。手を繋いで歩くのは久しぶりで、周りの視線を感じつつも楽しいひと時だった。
「ただいまー」
「ただいま、帰りました」
雷太とカーくんが玄関のドアを開けると、
「「誕生日おめでとう!!」」
仕事を早引けしてきてしまった父、嵐とかすみが待ってましたとばかりにクラッカーを鳴らした。
「さ、早くリビングに」
促されるままに、カーくんはリビングに足を踏み入れた。そこには、雷太の誕生日ケーキとカーくんの誕生日ケーキがおいてあった。
「これは……?」
不思議そうに尋ねるカーくんに、雷太はにこっと笑った。
「カーくんには誕生日がないから、うちに来た日を誕生日にしようと思って」
カーくんはとても長寿の宇宙人なので、本来の誕生日は地球の十年で一度くるかどうかというくらいだ。本来、誕生日もそれほど祝う習慣が故郷の星ではなかった。
「だからね、今年の誕生日プレゼントは『カーくんの誕生日決定権』でお願いっ!」
手を合わせて上目遣いに見上げる雷太には、いたずらっ子のような表情が浮かんでいた。そして、カーくんは、どう転んだってこの表情の雷太には敵わない。
「分かりました。雷太さんと一緒の誕生日なら絶対に忘れなくてよいです」
きっと、雷太の決めてくれた誕生日なら、いつだって忘れようがないだろうけど、とカーくんは思った。イカのような原形で黒田家に来た今日という日が自分の誕生日という記念日になると思わなかった。幸せだな、と思ったら自然と笑みが零れた。
「来年こそは、あっと驚くプレゼントをしてみせますよ」
そうして、記念日は楽しく過ぎていくのだった。
毎年、この時期になるとカーくんはひどく悩む。しかし、悩むのも今日、五月二十三日、雷太の誕生日までだ。
「うーん……」
カーくんは、自分の部屋をぐるぐると歩き回る。歩き回ったところで答えが出るはずもないのだが、じっとしていられない。いつもなら、自分の机に腰を落ち着けて考えるだろう。パソコンで色々調べてみたりするかもしれない。しかし、雷太が絡むとカーくんの作業効率は極端に上がるか下がるかのどちらかになる。中庸はない。
「誕生日プレゼント、喜んで欲しいんですけれど」
何をあげても雷太は喜ぶだろう。そんなこと、カーくんは百も承知だ。
困り果てて、カーくんは誰かに聞いてみることにした。雷太本人に直接聞いてみてもいいのだが、サプライズで渡したい。雷太に聞いたこともあるのだが、「カーくんのくれるものなら、何でも」と言われてしまい、例年以上に大変だった覚えがある。銀河レンタルで屋外用プラネタリウムを借りて空一面の流れ星をプレゼントしたり、手作りのケーキを作ってみたりとカーくんも頑張っている。
階段を下りて、リビングを覗くと雷太と瓜二つの母、かすみがいた。
「あら、カーくん今からお出かけ〜?」
出かけるつもりはなかったのだが、かすみにのんびりと問いかけられて、
「ええ」
と、うっかり答えてしまった。そう言ってしまうと、出かけないわけにも行かず、駅へ向かって歩き出した。
五月下旬ともなると、日差しは強い。しかし、爽やかな風が頬をなでるのが気持ちいい。こんな陽気の日には公園で新緑を眺めながら、ぼんやり過ごしてもいいのかもしれない。手入れの行き届いた黒田家の庭の薔薇も満開で、甘い香りは家を包んでいるようだった。
「歩きながら考えましょう。一日ありますし」
秘書としての激務に追われているカーくんだが、今日だけはオフをどうにかしてもぎ取った。雷太優先主義というのがカーくんのどうしても譲れない部分である。
駅までの道すがら、こんなにのんびりした休日は久しぶりだなとカーくんは思った。こんなにも周りを良く見て歩いたのはいつ以来か。本当に自分に余裕がなかったのだな、と苦笑しつつ青く澄み渡った空を見上げる。電線で区切られた雲がゆっくりと頭の上を通り過ぎる。
駅前のデパートは平日の昼間のせいか、ほどほど空いていた。どの階のどの店に行っても、考えるのは誕生日プレゼントのことばかり。自分の買い物のことなど考えられない。折角来たのだから、自分の買い物も済ませてしまえばよさそうなものなのに。
隣に雷太がいたら楽しいだろう、とぼんやり考えた。好奇心に輝く瞳、目まぐるしく変わる表情……本当に、大切で仕方ないのだと自覚する。そうして、本屋の前を通り過ぎようとした時に、左手が急に重くなった。
「カーくんみーっけ!」
そう言ってカーくんを見上げているのは、紛れもなく雷太だった。学校帰りのため、紺色のブレザーにえんじ色のネクタイの制服姿だ。革の鞄を左手に持ち、右手でカーくんを捕まえている。
「え? 今日は早いんですか?」
思いがけない雷太の登場にうろたえるカーくんに雷太はけろりと答えた。
「中間テストで早帰り」
「そういえば、そうでしたね」
聞いていなかったわけではないが、プレゼントについて考えるので最近ぼうっとしていたためかすっかり忘れていたようだ。
「じゃ、一緒に家に帰ろうよ」
「は、はい……」
結局、プレゼントは買わないままにカーくんは帰路に着いた。どうしようかと思いながらも、雷太に引っ張られて家に帰ってきてしまった。手を繋いで歩くのは久しぶりで、周りの視線を感じつつも楽しいひと時だった。
「ただいまー」
「ただいま、帰りました」
雷太とカーくんが玄関のドアを開けると、
「「誕生日おめでとう!!」」
仕事を早引けしてきてしまった父、嵐とかすみが待ってましたとばかりにクラッカーを鳴らした。
「さ、早くリビングに」
促されるままに、カーくんはリビングに足を踏み入れた。そこには、雷太の誕生日ケーキとカーくんの誕生日ケーキがおいてあった。
「これは……?」
不思議そうに尋ねるカーくんに、雷太はにこっと笑った。
「カーくんには誕生日がないから、うちに来た日を誕生日にしようと思って」
カーくんはとても長寿の宇宙人なので、本来の誕生日は地球の十年で一度くるかどうかというくらいだ。本来、誕生日もそれほど祝う習慣が故郷の星ではなかった。
「だからね、今年の誕生日プレゼントは『カーくんの誕生日決定権』でお願いっ!」
手を合わせて上目遣いに見上げる雷太には、いたずらっ子のような表情が浮かんでいた。そして、カーくんは、どう転んだってこの表情の雷太には敵わない。
「分かりました。雷太さんと一緒の誕生日なら絶対に忘れなくてよいです」
きっと、雷太の決めてくれた誕生日なら、いつだって忘れようがないだろうけど、とカーくんは思った。イカのような原形で黒田家に来た今日という日が自分の誕生日という記念日になると思わなかった。幸せだな、と思ったら自然と笑みが零れた。
「来年こそは、あっと驚くプレゼントをしてみせますよ」
そうして、記念日は楽しく過ぎていくのだった。


