ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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そ その他の人々(後編)
そして次の日の放課後、青木は体育館の裏へ向かった。約束の五分前には行ったのだが、すでにそこには新堂がいた。
「遅いっ!」
青木を見つけるなり、新堂は怒鳴りつけた。どうやらだいぶ待ったらしい。足元にはタバコの吸殻がいくつか落ちている。
「五分前だけど」
「俺は十分前に来たんだ!」
どんな俺ルールだよ、と青木は心の中で突っ込んだ。口に出したら闘争心に火をつけてしまうに違いない。それは面倒なので避けたかった。ため息をぐっと堪え、新堂をまっすぐ見据えた。
「それで、何の用?」
体育の授業がない日は体育館に誰も近付かないようで、周りには青木と新堂以外の姿は見えなかった。学校独特の喧騒は遠くで聞こえる。
「何か用? じゃねえ! 最近、お前調子に乗ってねえか?」
顔を真っ赤にして怒鳴る様子を青木は冷めた目で見つめた。いつもの取り巻きがいないのが不安らしく、小刻みに震えているのが滑稽だとぼんやり考えていた。
「思い知らせてや、」
「嫌だね」
新堂が言い終わるのを待たずに、青木は拒否した。余裕さえ見えるその物言いに新堂は些か動揺したように見えた。
「お前っ、今っ」
「嫌だよ。なんで新堂の言うことを聞く必要があるのか分からない」
淡々と述べる青木は頭の芯が冷えていくのを感じた。視界がすっきりとして、よく見える。怖さも怒りも悲しみもなかった。何も感じられない自分が、不思議だった。
「お前っ、あ、そ、そんなことっ」
興奮のあまり、新堂は上手くしゃべれないようだった。ポケットから携帯電話をとりだし、通話ボタンを押すと、にやりと笑った。仲間を後で呼ぶ必然性はどこにもない。新堂はどこまでも小悪党らしい。
「今、人を、呼んだからな」
新堂が呼んだのは、取り巻きの大森と小森だった。大森は背が160センチと小柄なのに対し、小森は身長が2メートル近い長身であるため、でこぼこコンビと呼ばれていた。
「ああ、そう」
腰ぎんちゃくを付けていない方が不思議だったので、今更呼ばれたところで何の驚きもなかった。青木は拳を握り締め、どうしようかと頭の中でシュミレーションした。
「新堂さん!」
「大丈夫ですか?」
大森と小森が駆けつけ、3対1となった。青木は不利な状況を理解していたが、逃げるつもりはなかった。ここで逃げたら今までと変わらない。
「生意気なんだよ、最近!」
そういって殴りかかってきたのは新堂だった。体重の乗ったパンチは当たれば相当なダメージとなるだろう。新堂に殴られる時に条件反射のように固まってしまう青木に救いの声がした。
「右後ろへ!」
声に反応して、体は動いた。
「しゃがんで足払い!」
護身術などの武道の実習で習ったとおりの完璧な技のかけ方だった。バランスを崩した新堂は顔から地面に倒れこむ。強か打ったようで、顔を覆って痛みに耐えている。しばらくは起きられない。
青木は声の主を見つけようとした。しかし、その前に大森が襲い掛かってきた。
「青木ぃ!!」
興奮した様子で大森は走りこんでくる。小柄なだけ合って、フットワークは軽い。
「腕を掴んでカウンター!」
声の指示に従って、青木は小森のひじを押さえ、鳩尾に拳をいれた。向かってきた勢いを完全に殺すことができなかったため、小森はその場に崩れ落ちてしまった。
「お前、何してるんだ!」
それはこっちの台詞だと青木は思った。小森は剣道の竹刀を手にしている。
「竹刀を取り上げ、背中に肘鉄!」
青木は言われたとおりに前に出て竹刀を掴み、自分の側に引き寄せた。前のめりに倒れてくる小森の背中にひじを入れた。背骨があるとはいえ、内臓の裏側を思い切り殴られるのはダメージが大きい。
「小森、大森っ! どうしたっ!」
ようやく起き上がった新堂は起き上がれない二人を見て、慌てふためいた。さっきまで優勢だったのが嘘のようである。新堂は怒りに満ちた瞳で青木を睨みつけた。
「お前ーっ!!」
バカの一つ覚えのように飛び込んでくる新堂の動きはそれほど早くなかった。最初に倒されたダメージが効いているらしい。
「腕を掴んで投げろ!」
声に従うことに躊躇いはなかった。体勢をやや低くして腕を掴み、相手の勢いを生かしてそのまま一本背負いに入った。
「っ!」
畳ではなく、地面に叩きつけられて新堂は声もでなかった。授業での練習をさぼっていたせいか、上手に受身をとれなかったらしい。
「終わった……」
三人が伸びた状態でいるのを見て、ぽつりと青木はもらした。嬉しいわけでも楽しいわけでもない。ただ、こんな奴らの言いなりになっていた自分が嫌だと思った。ひどい怪我をしているわけでもなかったので、三人を介抱することなく青木は体育館裏を後にした。
学校の校門を出ると、そこには赤田が待っていた。非番の日らしく、格好はジーパンにシャツを羽織った普通の格好である。
「ま、上出来上出来」
青木の肩をねぎらうように優しく叩いた。勝ったはずなのに、それでいいはずなのに、青木は浮かない顔をしている。初めて人を気絶させたショックは思った以上に大きい。
「仕方ないな……全く。応援してやったかいもない」
赤田がそう苦笑すると、青木はぱっと目を輝かせた。
「やっぱり赤田さんだったんですね!」
「『やっぱり』ってお前……気がつかなかったのか?」
呆れたような赤田に、青木は大きく肯く。夢中で気がつかないといっても程がある。ポテンシャルは高いにも関わらず、どうにも喧嘩には向かない男のようだ。
「ま、その方がお前らしいよ」
「え?」
瞬きを繰り返す青木に、赤田は笑った。
「大丈夫、別にお前は変わってないから」
青木は自分の中に燻っていた嫌な気持ちが納まるのを感じた。ああ、別に自分は暴力的になったわけでもないのだと誰かに言ってもらえて安心した。
「飯でも行くか」
「はい!」
青木は赤田への憧れの気持ちが大きくなるのを感じた。そして、ややずれた青木は熱血青年警察官の道へと進むのだった。
次回「つ つり橋の真ん中へ」
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「遅いっ!」
青木を見つけるなり、新堂は怒鳴りつけた。どうやらだいぶ待ったらしい。足元にはタバコの吸殻がいくつか落ちている。
「五分前だけど」
「俺は十分前に来たんだ!」
どんな俺ルールだよ、と青木は心の中で突っ込んだ。口に出したら闘争心に火をつけてしまうに違いない。それは面倒なので避けたかった。ため息をぐっと堪え、新堂をまっすぐ見据えた。
「それで、何の用?」
体育の授業がない日は体育館に誰も近付かないようで、周りには青木と新堂以外の姿は見えなかった。学校独特の喧騒は遠くで聞こえる。
「何か用? じゃねえ! 最近、お前調子に乗ってねえか?」
顔を真っ赤にして怒鳴る様子を青木は冷めた目で見つめた。いつもの取り巻きがいないのが不安らしく、小刻みに震えているのが滑稽だとぼんやり考えていた。
「思い知らせてや、」
「嫌だね」
新堂が言い終わるのを待たずに、青木は拒否した。余裕さえ見えるその物言いに新堂は些か動揺したように見えた。
「お前っ、今っ」
「嫌だよ。なんで新堂の言うことを聞く必要があるのか分からない」
淡々と述べる青木は頭の芯が冷えていくのを感じた。視界がすっきりとして、よく見える。怖さも怒りも悲しみもなかった。何も感じられない自分が、不思議だった。
「お前っ、あ、そ、そんなことっ」
興奮のあまり、新堂は上手くしゃべれないようだった。ポケットから携帯電話をとりだし、通話ボタンを押すと、にやりと笑った。仲間を後で呼ぶ必然性はどこにもない。新堂はどこまでも小悪党らしい。
「今、人を、呼んだからな」
新堂が呼んだのは、取り巻きの大森と小森だった。大森は背が160センチと小柄なのに対し、小森は身長が2メートル近い長身であるため、でこぼこコンビと呼ばれていた。
「ああ、そう」
腰ぎんちゃくを付けていない方が不思議だったので、今更呼ばれたところで何の驚きもなかった。青木は拳を握り締め、どうしようかと頭の中でシュミレーションした。
「新堂さん!」
「大丈夫ですか?」
大森と小森が駆けつけ、3対1となった。青木は不利な状況を理解していたが、逃げるつもりはなかった。ここで逃げたら今までと変わらない。
「生意気なんだよ、最近!」
そういって殴りかかってきたのは新堂だった。体重の乗ったパンチは当たれば相当なダメージとなるだろう。新堂に殴られる時に条件反射のように固まってしまう青木に救いの声がした。
「右後ろへ!」
声に反応して、体は動いた。
「しゃがんで足払い!」
護身術などの武道の実習で習ったとおりの完璧な技のかけ方だった。バランスを崩した新堂は顔から地面に倒れこむ。強か打ったようで、顔を覆って痛みに耐えている。しばらくは起きられない。
青木は声の主を見つけようとした。しかし、その前に大森が襲い掛かってきた。
「青木ぃ!!」
興奮した様子で大森は走りこんでくる。小柄なだけ合って、フットワークは軽い。
「腕を掴んでカウンター!」
声の指示に従って、青木は小森のひじを押さえ、鳩尾に拳をいれた。向かってきた勢いを完全に殺すことができなかったため、小森はその場に崩れ落ちてしまった。
「お前、何してるんだ!」
それはこっちの台詞だと青木は思った。小森は剣道の竹刀を手にしている。
「竹刀を取り上げ、背中に肘鉄!」
青木は言われたとおりに前に出て竹刀を掴み、自分の側に引き寄せた。前のめりに倒れてくる小森の背中にひじを入れた。背骨があるとはいえ、内臓の裏側を思い切り殴られるのはダメージが大きい。
「小森、大森っ! どうしたっ!」
ようやく起き上がった新堂は起き上がれない二人を見て、慌てふためいた。さっきまで優勢だったのが嘘のようである。新堂は怒りに満ちた瞳で青木を睨みつけた。
「お前ーっ!!」
バカの一つ覚えのように飛び込んでくる新堂の動きはそれほど早くなかった。最初に倒されたダメージが効いているらしい。
「腕を掴んで投げろ!」
声に従うことに躊躇いはなかった。体勢をやや低くして腕を掴み、相手の勢いを生かしてそのまま一本背負いに入った。
「っ!」
畳ではなく、地面に叩きつけられて新堂は声もでなかった。授業での練習をさぼっていたせいか、上手に受身をとれなかったらしい。
「終わった……」
三人が伸びた状態でいるのを見て、ぽつりと青木はもらした。嬉しいわけでも楽しいわけでもない。ただ、こんな奴らの言いなりになっていた自分が嫌だと思った。ひどい怪我をしているわけでもなかったので、三人を介抱することなく青木は体育館裏を後にした。
学校の校門を出ると、そこには赤田が待っていた。非番の日らしく、格好はジーパンにシャツを羽織った普通の格好である。
「ま、上出来上出来」
青木の肩をねぎらうように優しく叩いた。勝ったはずなのに、それでいいはずなのに、青木は浮かない顔をしている。初めて人を気絶させたショックは思った以上に大きい。
「仕方ないな……全く。応援してやったかいもない」
赤田がそう苦笑すると、青木はぱっと目を輝かせた。
「やっぱり赤田さんだったんですね!」
「『やっぱり』ってお前……気がつかなかったのか?」
呆れたような赤田に、青木は大きく肯く。夢中で気がつかないといっても程がある。ポテンシャルは高いにも関わらず、どうにも喧嘩には向かない男のようだ。
「ま、その方がお前らしいよ」
「え?」
瞬きを繰り返す青木に、赤田は笑った。
「大丈夫、別にお前は変わってないから」
青木は自分の中に燻っていた嫌な気持ちが納まるのを感じた。ああ、別に自分は暴力的になったわけでもないのだと誰かに言ってもらえて安心した。
「飯でも行くか」
「はい!」
青木は赤田への憧れの気持ちが大きくなるのを感じた。そして、ややずれた青木は熱血青年警察官の道へと進むのだった。
次回「つ つり橋の真ん中へ」
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Comments
No title
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こちらにも感想ありがとう! 本当に書いていて良かったーって感激してます。
青木は精神的なところでブレーキをかけてしまうのであまり強くないんです……だから情けないんですね。それが彼の持ち味なので、よいと思ってます。今回、赤田が青木に慕われる理由が書けて、ちょっと満足。手前味噌ですが、トラレンも好きなんです(^o^)
次回はブラックサンダーに戻り、カーくん中心で話を進めます。早めに更新できるよう、頑張るね!
青木は精神的なところでブレーキをかけてしまうのであまり強くないんです……だから情けないんですね。それが彼の持ち味なので、よいと思ってます。今回、赤田が青木に慕われる理由が書けて、ちょっと満足。手前味噌ですが、トラレンも好きなんです(^o^)
次回はブラックサンダーに戻り、カーくん中心で話を進めます。早めに更新できるよう、頑張るね!
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さて、決心のついた青木さん、いよいよ宿敵(?)・新堂との対決に向かいます。
この話では青木さんが終始かっこいいですね〜。謎の声(笑)の助けを借りつつも、新堂+とりまきをたった一人で片付けちゃうんですから。態度も何やら堂々としていて、立派になって……(感涙)。
そんな青木さんの成長ぶりとは裏腹に、新堂がどこまでも情けないです。結局一対一じゃなくて、とりまき呼んで三対一にしちゃうし、それでも青木さんに負けちゃうし……。そういえばとりまきの名前が、またユーモアがきいていて面白いですね。大森と小森(笑)。「どんな俺ルールだよ」という青木さんの心の突っ込みも面白かったです。
そして、何といっても今回の話の影の功労者は赤田さん! 相談に乗るだけじゃなくて、あとのフォローもばっちりだなんて、もうしびれますね〜。しかしまさか青木さんがそれに気付いてなかったなんて、びっくりですよ。でも確かに赤田さんの言う通り、そのほうが青木さんらしいかも(笑)。
今回は番外編ということで、トラフィック・レンジャーさん達のお話でしたが、次回のお題「つり橋の真ん中へ」はまた本編に戻って、ブラック・サンダー側のお話となるのでしょうか。院の勉強とか忙しいと思うけど、つづきを楽しみにしていますので、頑張ってください! 私も暇なときにまた感想書きにきますね〜。それでは!