ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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れ レタスとキャベツとマヨネーズ
ブラック・サンダーの面々が異人館に集まった数日後。
「お〜い、開けてくれよぅ〜」
木造アパートの二階の角部屋のドアがやや乱暴に叩かれたのは、深夜と言ってもいい時間だった。叩いているのは、グレーのスーツの男である。スーツといってもなかなかデザイン性が高く、堅気のサラリーマンではあるまい。明るい茶色の髪は軽く後ろでまとめてあるが、いい加減に結んであるらしく、今にも解けそうだ。
「海月ー、海月ー! あーおーくーんー!」
どうやら酔っ払っているらしい。ドアを叩いては、額をくっ付けるようにして中を覗き込んでいる。足元は覚束ない。片手でドアに手をついて、体をどうにか支えている。これ以上煩くされると近所迷惑だと判断して、アパートの住人である海月ことゼリーフィッシャーはしぶしぶドアを開けた。
「とりあえず入れ、竜田」
「ありらとー」
崩れ落ちるように入ってきた竜田ことシーホーサーをゼリーフィッシャーは受け止めた。なんとなくなれている自分が嫌だと一人ごちたが、酔っ払いは聞いてはいない。
「酒癖が悪いにもほどがあるだろ……毎度毎度、懲りないよな」
シーホーサーはテレビ局で放送作家や脚本家として程々の地位を確立してきている。人当たりは良く、少しお調子者だが真面目で仕事熱心というのが周りの評価だ。ゼリーフィッシャーも事実その通りであると思っている。しかし……
「俺のとこに来るとこれって、ひどくねぇ?」
シーホーサーは酒が入るととにかく人に絡む。気を許した友人なら尚更である。と、いうことで、酒の勢いに任せて愚痴りたいと思ったシーホーサーは深夜にもかかわらず親友宅を訪ねたというわけだった。
「おい、しっかりしろよ」
「ん〜? もうお酒はいいですよぅ〜」
「飲めなんて言ってねぇよ!」
ぶつくさ言いながらも、引きずるようにして酔っ払いをベッドまで運ぶ。手のかかるやつだとゼリーフィッシャーは苦笑するほかない。
普段であれば、悪態をついたり、茶化すゼリーフィッシャーをシーホーサーがたしなめるということが多い。ある意味ボケと突っ込みのよいコンビである。しかし、今は突っ込みが不在。不在というか、突っ込みが天然ボケに大変身。ゼリーフィッシャーに、シーホーサーは止められない。
「あのさー、聞いてくれよ!」
大人しく寝ていたかと思いきや、シーホーサーはいきなりばね仕掛けの人間のように飛び起きた。そして、乱れた髪を適当に撫で付け、ズボンについた糸くずを払うと一言。
「まあ、お前もそこに座りなさい」
と、いきなりゼリーフィッシャーに言った。なぜか親父のお説教モードだが、ゼリーフィッシャーも慣れっこなので特に驚かない。
「で、何だ?」
座布団の上に胡坐をかいて、シーホーサーを見上げると、泣きそうな顔をしている。内心、参ったなと思いながらも酔っ払いをどう寝かしつけるかを考えている。
「あのさ……」
話し始めたシーホーサーは本気で悩んでいるようだった。酔っ払いには違いないが、さっきまでの陽気さが影を潜めている。
「俺は、テレビ局を辞めようと思ってるんだ。でも、周りが許してくれなくて……難題をもちかけてきて、それが出来たらやめてもいいって」
「それはちょっと厳しいな。どんなことしろって?」
「火サスの脚本を書けと」
そういうと、シーホーサーは再びベッドに倒れこんだ。天井を見つめて、大きくため息をついている。
「お前、脚本を書くのも好きじゃないか。何が嫌なんだ?」
「そりゃさ……」
黙りこんだシーホーサーにゼリーフィッシャーは心配になる。
「どうした?」
「火サスの題が『サンドイッチ殺人事件〜レタスとキャベツとマヨネーズの三角関係の果てに起きた十年前の連続殺人、マスタードで書かれたダイイングメッセージ、失踪していたハムが現れたときに再び事件は動き出す〜』でなきゃそう思うさ」
どうやら、シーホーサーを引き止めるために上司が無理難題を出したらしい。根が真面目なシーホーサーはどうしていいのか分からなくなって、ゼリーフィッシャーを尋ねたというわけらしい。
「割りと面白いんじゃね?」
生来のふざけ心がうずく題名だ。ゼリーフィッシャーは人の悪い笑みを浮かべた。
「俺が、一緒に考えてやるよ」
「マジ〜?」
信じられないといった様子でシーホーサーはゼリーフィッシャーを見つめた。
「ちょっと待て、用意するから」
台所に行くと、ゼリーフィッシャーは日本酒の一升瓶を抱えて戻ってきた。こうして、二人は前代未聞の火曜サスペンスの脚本にとりかかったのだった。
※ ※ ※
「出来てる……」
信じられない、という風にシーホーサーは呟いた。火曜サスペンスの台本はきっちり書きあがっていた。丸っこいシーホーサーの字と少し右上がりのゼリーフィッシャーのくせ字が交互に並んでいる。
「感謝しろよ」
ぐったりとしたゼリーフィッシャーの傍には空の酒瓶がいくつも転がっていた。シーホーサーはこの酒と友情の結晶である脚本を仕上げて、フリーになる権利を得た。余談であるが、『サンドイッチ殺人事件』は火曜サスペンスでありながら、コメディとしての完成度が高いという評価を得て、続編が作られるほどの人気作となったのだった。
次回「そ その他の人々(前編)」
「お〜い、開けてくれよぅ〜」
木造アパートの二階の角部屋のドアがやや乱暴に叩かれたのは、深夜と言ってもいい時間だった。叩いているのは、グレーのスーツの男である。スーツといってもなかなかデザイン性が高く、堅気のサラリーマンではあるまい。明るい茶色の髪は軽く後ろでまとめてあるが、いい加減に結んであるらしく、今にも解けそうだ。
「海月ー、海月ー! あーおーくーんー!」
どうやら酔っ払っているらしい。ドアを叩いては、額をくっ付けるようにして中を覗き込んでいる。足元は覚束ない。片手でドアに手をついて、体をどうにか支えている。これ以上煩くされると近所迷惑だと判断して、アパートの住人である海月ことゼリーフィッシャーはしぶしぶドアを開けた。
「とりあえず入れ、竜田」
「ありらとー」
崩れ落ちるように入ってきた竜田ことシーホーサーをゼリーフィッシャーは受け止めた。なんとなくなれている自分が嫌だと一人ごちたが、酔っ払いは聞いてはいない。
「酒癖が悪いにもほどがあるだろ……毎度毎度、懲りないよな」
シーホーサーはテレビ局で放送作家や脚本家として程々の地位を確立してきている。人当たりは良く、少しお調子者だが真面目で仕事熱心というのが周りの評価だ。ゼリーフィッシャーも事実その通りであると思っている。しかし……
「俺のとこに来るとこれって、ひどくねぇ?」
シーホーサーは酒が入るととにかく人に絡む。気を許した友人なら尚更である。と、いうことで、酒の勢いに任せて愚痴りたいと思ったシーホーサーは深夜にもかかわらず親友宅を訪ねたというわけだった。
「おい、しっかりしろよ」
「ん〜? もうお酒はいいですよぅ〜」
「飲めなんて言ってねぇよ!」
ぶつくさ言いながらも、引きずるようにして酔っ払いをベッドまで運ぶ。手のかかるやつだとゼリーフィッシャーは苦笑するほかない。
普段であれば、悪態をついたり、茶化すゼリーフィッシャーをシーホーサーがたしなめるということが多い。ある意味ボケと突っ込みのよいコンビである。しかし、今は突っ込みが不在。不在というか、突っ込みが天然ボケに大変身。ゼリーフィッシャーに、シーホーサーは止められない。
「あのさー、聞いてくれよ!」
大人しく寝ていたかと思いきや、シーホーサーはいきなりばね仕掛けの人間のように飛び起きた。そして、乱れた髪を適当に撫で付け、ズボンについた糸くずを払うと一言。
「まあ、お前もそこに座りなさい」
と、いきなりゼリーフィッシャーに言った。なぜか親父のお説教モードだが、ゼリーフィッシャーも慣れっこなので特に驚かない。
「で、何だ?」
座布団の上に胡坐をかいて、シーホーサーを見上げると、泣きそうな顔をしている。内心、参ったなと思いながらも酔っ払いをどう寝かしつけるかを考えている。
「あのさ……」
話し始めたシーホーサーは本気で悩んでいるようだった。酔っ払いには違いないが、さっきまでの陽気さが影を潜めている。
「俺は、テレビ局を辞めようと思ってるんだ。でも、周りが許してくれなくて……難題をもちかけてきて、それが出来たらやめてもいいって」
「それはちょっと厳しいな。どんなことしろって?」
「火サスの脚本を書けと」
そういうと、シーホーサーは再びベッドに倒れこんだ。天井を見つめて、大きくため息をついている。
「お前、脚本を書くのも好きじゃないか。何が嫌なんだ?」
「そりゃさ……」
黙りこんだシーホーサーにゼリーフィッシャーは心配になる。
「どうした?」
「火サスの題が『サンドイッチ殺人事件〜レタスとキャベツとマヨネーズの三角関係の果てに起きた十年前の連続殺人、マスタードで書かれたダイイングメッセージ、失踪していたハムが現れたときに再び事件は動き出す〜』でなきゃそう思うさ」
どうやら、シーホーサーを引き止めるために上司が無理難題を出したらしい。根が真面目なシーホーサーはどうしていいのか分からなくなって、ゼリーフィッシャーを尋ねたというわけらしい。
「割りと面白いんじゃね?」
生来のふざけ心がうずく題名だ。ゼリーフィッシャーは人の悪い笑みを浮かべた。
「俺が、一緒に考えてやるよ」
「マジ〜?」
信じられないといった様子でシーホーサーはゼリーフィッシャーを見つめた。
「ちょっと待て、用意するから」
台所に行くと、ゼリーフィッシャーは日本酒の一升瓶を抱えて戻ってきた。こうして、二人は前代未聞の火曜サスペンスの脚本にとりかかったのだった。
※ ※ ※
「出来てる……」
信じられない、という風にシーホーサーは呟いた。火曜サスペンスの台本はきっちり書きあがっていた。丸っこいシーホーサーの字と少し右上がりのゼリーフィッシャーのくせ字が交互に並んでいる。
「感謝しろよ」
ぐったりとしたゼリーフィッシャーの傍には空の酒瓶がいくつも転がっていた。シーホーサーはこの酒と友情の結晶である脚本を仕上げて、フリーになる権利を得た。余談であるが、『サンドイッチ殺人事件』は火曜サスペンスでありながら、コメディとしての完成度が高いという評価を得て、続編が作られるほどの人気作となったのだった。
次回「そ その他の人々(前編)」
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Comments
No title
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コメント、どうもありがとう〜。
久遠ちゃんの感想を聞くと、続きを書く気が起きてくるようです。「れ レタスとキャベツとマヨネーズ」は正直、どう入れるかを悩んだんだけれど……悪友コンビを出したら、するするっと書けました。火サスは、私も見たい…内容の想像が付きそうでつかない副題なんだよなぁ(笑)
久遠ちゃんの感想を聞くと、続きを書く気が起きてくるようです。「れ レタスとキャベツとマヨネーズ」は正直、どう入れるかを悩んだんだけれど……悪友コンビを出したら、するするっと書けました。火サスは、私も見たい…内容の想像が付きそうでつかない副題なんだよなぁ(笑)
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「レタスとキャベツとマヨネーズ」という突拍子もないお題をどう処理するのかと楽しみに拝見させていただきました。ま、まさか火サスの脚本の題だったとは! ちょっとこのドラマ、見てみたいですね(笑)。続編も作られたそうですが、それってどんなんなんだー。
そして、たっちゃんって、放送作家としても有能だったんですね〜。まわりが転職を許してくれないなんてすごいぞ。
今回のMVPな一文は、「不在というか、突っ込みが天然ボケに大変身」。ここ、面白かったです。たっちゃんの酒癖の悪さは相変わらずですね☆