ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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よ 夜を盗みに来る男(前編)
二日酔いから復活したシーホーサーを家から叩き出し、ゼリーフィッシャーは黙々と自分のアパートを片付けている。一心不乱に掃除に勤しむその姿はその道のエキスパートのようである。上から下へ順に埃を落とし、隅々まで掃除機をかけ、フローリングは自然にやさしいワックスで磨き上げ、窓ガラスは新聞紙で拭き掃除……ついでにベッドのシーツやタオルケットなどの大きな洗物もした。換気扇やレンジ回りの油汚れもすっかり落とし、キッチンは整理整頓されてこれ以上やることはなくなってしまった。普段の雑然とした部屋が嘘のようだ。
「やっぱ、行かなきゃまずいよな」
そう、ゼリーフィッシャーがいきなり掃除魔になってしまったのは、現実逃避のためだった。どうしても気が向かないので、適当に行かない口実が欲しかったのだ。
「あー、連絡していかないとまずいかなー」
電話するのもちょっと面倒である。少し考えてから、受話器に伸ばしかけた手を引っ込めた。白い三角巾にエプロン&マスクという掃除完全武装スタイルから、外出着に着替える。ベージュの綿パンツに濃いブラウンで所々に刺繍の入ったシャツ、そして同じシリーズのシルバーピアスとネックレス、素っ気無い格好だが割と趣味はいい。ピアスが少し伸びすぎた黒い髪の隙間からきらりと光る。ぴかぴかになった部屋を振り返り、大きなため息を一つ吐くと、諦めたように駅へと向かった。
ゼリーフィッシャーの行く先は、彼の住むアパートの最寄り駅から一時間ほどのところにある。足取りも重く入っていったのは駅前に立ち並んだ中で一番古い十階建てマンション『メゾン プラネット』であった。
「ここまで来たら仕方ない」
嫌々ながら、鍵を取り出してマンションの五階の一番端のドアを開けた。
「おかえりー! マイスウィートサーン!」
そう叫びながらゼリーフィッシャーに駆け寄ってきたのはゼリーフィッシャーの父である。年は六十歳と言ったところだろうか。オールバックにした白髪交じりの髪に鼻の下の口ひげが印象的だ。老人という印象はなく、好奇心に輝く瞳だけ見れば、ゼリーフィッシャーの方が明らかに老成している。
「『スウィートサン』って何だよ! 馬鹿親父! いい年してんだからもうちょっと落ち着いてくれよ」
巧みに父のタックルを交わしてゼリーフィッシャーは突っ込む。真剣に怒っているのだが、細い目であるがゆえにそうは見えない。
「ははは、ごめんよ蒼夜。つい嬉しくてねぇ」
反省のかけらもない父にゼリーフィッシャーは肩を落とす。だから実家には帰りたくないのだとぶつぶつ呟いている。
「嬉しくて、で許されるかよ。ったく……それが二十六にもなる息子に対する行動かよ」
「嫌だな、いつになっても君は僕の可愛い息子さっ」
「そういうテンションの高さが嫌なんだよ!」
すがり付こうとする父を振り切って、ゼリーフィッシャーはリビングへと進んだ。しかし、リビングまでのたった二メートル強の間にまたもや障害が現れた。
「蒼夜ちゃん! 来るなら連絡してくれれば良かったのに〜」
そういって登場したのがゼリーフィッシャーの母である。ゼリーフィッシャーの腕の付け根をばしばしと叩く姿は肝っ玉母ちゃんといったら一番分かり易いだろう。五十代前半の母は少々ぽっちゃり系でちょいとドラム缶に近い体型をしているので、叩かれたゼリーフィッシャーは思わずよろけた。
「お袋……『ちゃん』付けは止してくれ……」
叩かれた箇所を擦りながら抗議するが、
「やーだ、蒼夜ちゃんたら照れちゃって!」
あまり抗議の意味がないことも今までの経験から学習済みである。
「あー、そういうことにしておいてくれよ」
玄関からわずか数メートルでHPを半分くらい削り取られてリビングにたどり着いた。ゼリーフィッシャーがソファーで休んでいると、母はお茶を入れてきていた。
「で、今日は何の用なの?」
テンションの高い父はまだ何か言っていた様だったが、母は軽く受け流してゼリーフィッシャーに尋ねてきた。近くに住んでいるのに盆と正月にしか帰ってこない息子がいきなり訪ねてきたら、確かに心配にもなるだろう。ゼリーフィッシャーは暫くの沈黙の後に口を開いた。
「報告したいことがあるんだ」
次回 「よ 夜を盗みに来る男(後編)」
「やっぱ、行かなきゃまずいよな」
そう、ゼリーフィッシャーがいきなり掃除魔になってしまったのは、現実逃避のためだった。どうしても気が向かないので、適当に行かない口実が欲しかったのだ。
「あー、連絡していかないとまずいかなー」
電話するのもちょっと面倒である。少し考えてから、受話器に伸ばしかけた手を引っ込めた。白い三角巾にエプロン&マスクという掃除完全武装スタイルから、外出着に着替える。ベージュの綿パンツに濃いブラウンで所々に刺繍の入ったシャツ、そして同じシリーズのシルバーピアスとネックレス、素っ気無い格好だが割と趣味はいい。ピアスが少し伸びすぎた黒い髪の隙間からきらりと光る。ぴかぴかになった部屋を振り返り、大きなため息を一つ吐くと、諦めたように駅へと向かった。
ゼリーフィッシャーの行く先は、彼の住むアパートの最寄り駅から一時間ほどのところにある。足取りも重く入っていったのは駅前に立ち並んだ中で一番古い十階建てマンション『メゾン プラネット』であった。
「ここまで来たら仕方ない」
嫌々ながら、鍵を取り出してマンションの五階の一番端のドアを開けた。
「おかえりー! マイスウィートサーン!」
そう叫びながらゼリーフィッシャーに駆け寄ってきたのはゼリーフィッシャーの父である。年は六十歳と言ったところだろうか。オールバックにした白髪交じりの髪に鼻の下の口ひげが印象的だ。老人という印象はなく、好奇心に輝く瞳だけ見れば、ゼリーフィッシャーの方が明らかに老成している。
「『スウィートサン』って何だよ! 馬鹿親父! いい年してんだからもうちょっと落ち着いてくれよ」
巧みに父のタックルを交わしてゼリーフィッシャーは突っ込む。真剣に怒っているのだが、細い目であるがゆえにそうは見えない。
「ははは、ごめんよ蒼夜。つい嬉しくてねぇ」
反省のかけらもない父にゼリーフィッシャーは肩を落とす。だから実家には帰りたくないのだとぶつぶつ呟いている。
「嬉しくて、で許されるかよ。ったく……それが二十六にもなる息子に対する行動かよ」
「嫌だな、いつになっても君は僕の可愛い息子さっ」
「そういうテンションの高さが嫌なんだよ!」
すがり付こうとする父を振り切って、ゼリーフィッシャーはリビングへと進んだ。しかし、リビングまでのたった二メートル強の間にまたもや障害が現れた。
「蒼夜ちゃん! 来るなら連絡してくれれば良かったのに〜」
そういって登場したのがゼリーフィッシャーの母である。ゼリーフィッシャーの腕の付け根をばしばしと叩く姿は肝っ玉母ちゃんといったら一番分かり易いだろう。五十代前半の母は少々ぽっちゃり系でちょいとドラム缶に近い体型をしているので、叩かれたゼリーフィッシャーは思わずよろけた。
「お袋……『ちゃん』付けは止してくれ……」
叩かれた箇所を擦りながら抗議するが、
「やーだ、蒼夜ちゃんたら照れちゃって!」
あまり抗議の意味がないことも今までの経験から学習済みである。
「あー、そういうことにしておいてくれよ」
玄関からわずか数メートルでHPを半分くらい削り取られてリビングにたどり着いた。ゼリーフィッシャーがソファーで休んでいると、母はお茶を入れてきていた。
「で、今日は何の用なの?」
テンションの高い父はまだ何か言っていた様だったが、母は軽く受け流してゼリーフィッシャーに尋ねてきた。近くに住んでいるのに盆と正月にしか帰ってこない息子がいきなり訪ねてきたら、確かに心配にもなるだろう。ゼリーフィッシャーは暫くの沈黙の後に口を開いた。
「報告したいことがあるんだ」
次回 「よ 夜を盗みに来る男(後編)」
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Comments
No title
No title
感想を見つけ、小躍りするほどに喜んでいます。
くららの父はいつまでも心は少年☆ということを意識しました(笑)もっとエピソードがたくさんあったのですが、ぐっと堪えて(前後編には分かれてしまいましたが)短めにまとめてみました。この先も出してみたいキャラです。
くららの父はいつまでも心は少年☆ということを意識しました(笑)もっとエピソードがたくさんあったのですが、ぐっと堪えて(前後編には分かれてしまいましたが)短めにまとめてみました。この先も出してみたいキャラです。
No title
いつまでも心は少年・・・・・・!
なんて素敵なフレーズなんでしょう。
くらら父にはまだまだ楽しいエピソードがあるんですね。
私にとっても、彼はこの先も読んでみたいキャラです☆
なんて素敵なフレーズなんでしょう。
くらら父にはまだまだ楽しいエピソードがあるんですね。
私にとっても、彼はこの先も読んでみたいキャラです☆
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遅くなってしまいましたが、感想を書かせて下さい。
今回のお話では、なんとくららの両親が登場するのですね! 息子を溺愛するかっとんだ親御さん達で、これではくららが実家にあまり帰りたくない気持ちも分かる気がします。「マイスウィートサン」には吹き出しました。ナイス! ナイスだよ、くらら父!(笑) この表現、どっかで使ってみたいなぁ。
さて、くららが報告したいこととはたぶんブラック・サンダーの件ですよね。親御さん達の反応はいかに? と、期待しながら次の後編の感想にまいります。