ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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わ 罠の数は35(番外編)
赤田、黄川、青木の三人は半強制的に交通戦隊トラフィック・レンジャーとなった。そして、その一ヵ月後……彼らはあるアスレチックフィールドに来ていた。
小さな山を造営して作ったそのアスレチックは、ハイキングコースもあるなかなか本格的なもので、多くの人でにぎわっていた。しかし、彼らがいるのは上級者用山道コースであり、人もまばらであった。道の脇には常緑樹が生い茂り、時折鳥の声が聞こえる。
「せんぱ〜い」
情けない声で話しかけるのは体育会系の熱血青年、青木であった。真っ青なジャージを着て、肩に白いタオルをかけ、小走りに駆け寄ってくる。
「なんだよ」
鬱陶しそうに振り向いたのは、赤いジャージを着た中肉中背の男、赤田であった。青木ほどではないにせよ、少し汗をかいている。青木が並走しているので、少しスピードを落として話を聞く様子をみせた。
「何で先輩は疑問を感じないんですかー!」
青木は空気を読まずに、疑問を投げかけた。放っておくといつまでも質問し続けるので、赤田は簡潔に答える。
「今日は訓練だって言ったろ?」
「いや、でもなんでアスレチック……? っていうか、たまの休みにこんなとこにー!」
「身体能力を高めるためだろ? しかもまだ、アスレチックの入り口にはついてない」
「先輩は、なんでそんなに正義の味方を受け入れてるんですか? そりゃあ、俺だって彼女もいないし、休日は暇ですけど! 何にも予定がなくて、暇ですけど! ちょっと暇すぎて切なくなったりしますけど!
……ってまだ入り口でじゃ……な、い?」
青木は額の汗を拭っている手を止めた。山林の道を走ること30分、決して体力に自信がないわけではないが、なれない山道に足が取られてだいぶ疲労も溜まってきている。アスレチックが訓練だというのは聞いているが、ウォーミングアップにしてはきつすぎやしないだろうか。
「二人とも、はーやーくー!」
そして、遥か前を行く黄色のジャージの男は三十路も越えた三児の父、黄川である。その小さな体にどんな体力があるのかと尋ねたくなるような速さで、山道を駆け上がっていっている。
「ここからは階段みたいだよー!」
笑顔で二人に手を振る黄川は、全く疲れた様子がない。童顔であるために、一番年下である24歳の青木よりも若く見える。
追いついた二人は、まるで足に羽が生えているかのような黄川の軽い足取りに驚きつつ、一路アスレチックの入り口を目指した。そして、300段ほどの階段を上りきった先に入り口があった。ふと辺りを見回して、青木は駐車場があるのを見つけた。
「ここまで、車でこれるんですか……?」
震える指先で車を指すと、黄川は屈託のないように見える笑顔で答える。
「そうだよ〜」
山道を走る必要などなかったのではないかと思うと、青木は座り込んでしまった。脱力した青木を見下ろす赤田も肩で大きく息をしている。驚くべきは黄川の体力といったところだろう。
「受付だけ済ませてくるよ」
そう言うと、黄川は受付で指定のゼッケンを三枚もらってきた。赤、黄、青であるのは言うまでもない。ゼッケンには、一般の人とは違い、正面と背中側、各々の右下に『SPECIAL』と目立つピンクの蛍光塗料で描かれていた。
三人はゼッケンをつけると、今日の本来の目的であるアスレチック訓練に入った。
「おお〜、本格派〜」
黄川が感心したのも無理はない。なぜなら、目の前に広がったのは、明らかに上級者用のアスレチックフィールドだった。傾斜の大きい木の坂を上らねばいけないらしい。
「あ、そうだ……俺、指令書を預ってるんだった」
呆けたように目の前のアスレチックを眺めている三人の内で最初に正気に戻ったのは、赤田だった。他の二人に聞こえるようにその内容を読み上げる。
「『罠の数は35。無事にクリアしてください。健闘を祈ります。
トラフィックレンジャー司令官X』」
手書きで書かれた指令書は達筆な行書体で書かれていた。しかも、和紙に筆。スーツを綺麗に着こなす若い男としては意外な特技があるものだと赤田は思った。
「罠……っていうかトラップありとはすごいねー」
あはは、と朗らかに笑う黄川とは対照的に青木は真っ青になっている。
「35ということは……俺と先輩で5つずつ。青木が25ってとこですかねぇ」
赤田がそっと耳打ちすると、
「そうだね。そんなもんでしょ」
と黄川も同意した。青ざめた青木は黄川の発言には気付かない。罠にかかることなら天下一、天性の才能をみせる彼に、先輩二人組はある意味期待している。
「えーっと、皆で頑張ればなんとかなりますよね!」
青木はいつまでも凹んでいても仕方ないと顔をあげた。赤田と黄川はそんな青木を見てにっこり笑い、背中を押した。
「え? ええ? えええ?」
前につんのめるようにして、青木はスタートのテープを切った。すると、空砲がなり、スタート地点のゲートについている赤いランプが点滅した。
「なんか非常事態ー!」
すると、急な坂の上から大きなボールが転がり落ちてきた。大玉転がしに使うような直径2メートルはあろうかというボールにたっぷりと入っているのは白い粉。
「頑張れよ」
「ファイトー」
無責任極まりない応援をしてから、赤田と黄川は被害の及ばない区域まで避難していた。近くにあった透明なビニール傘を差して、二人で青木を見守る。
「先輩ー、黄川さんー、どうしたらいいんですかね?」
二人が避難しているとは露ほども思わず、青木は助けを求める。しかし、
「なんでいないのー!!」
お約束のように、青木は坂を上る途中でボールの直撃をうけた。その瞬間、バランスを崩して下に落ちそうになる。必死で掴んだのは一本の紐。
「よかった……って、よくなーい!」
紐はボールについていた。ボールの中には白い粉が入っていた。ボールはくす玉のような構造だった。以上の事柄から次に起こることを予想しなさい(完答・10点)
「粉が振ってくるー!」
お約束のように青木は頭から白い粉をかぶり、坂から転げ落ちた。下にはまるで予想されていたように衝撃吸収のマットがあるので大きな怪我をすることはない。粉まみれの青木の上には転がってきたボールの半円部分がすっぽり覆いかぶさった。
「たーすーけーてー!」
叫ぶ青木に、赤田と黄川は職人芸を見るかのごとく感心した。
「あそこまで完璧なリアクションとれるのって中々いませんよね」
まだ舞い上がっている粉を見ながら、赤田は落ち着いてコメントをする。
「紐を引っ張って自爆だもんね。まず、ボールを避けないとこが凄いけど」
「じゃ、助けに行きますか」
「そだね〜」
舞い上がる粉が落ちつくのを待ってから、二人は青木の救出に向かった。よく見てみれば、白い粉にはラメのようなものが混ぜてあり、視覚的効果を上げるように工夫されていた。
「早く助けてくださいよー!」
「分かってるよ」
ボールを持ち上げて、赤田はすっかり白くなった青木を助け出した。残り34か、と考えているのは露ほども見せずに赤田は取っておきの笑顔で赤田を励ました。
「どんまい。頑張ろうじゃないか」
そうして、再び坂を上ればビー球を転がされて落ち、池の飛び石を渡ればお約束のように池ポチャ、落とし穴には一つ残らず落ち、上から落ちてくる金ダライは頭のてっぺんで受け、OXクイズでは特殊ゲルで出来た粘度の高い沼に飛び込んだ。すべて、パーフェクトなリアクションの青木に、赤田と黄川は何度吹き出しそうになっ
たことか分からない。ちなみに、赤田は通路の左右から出てくるウレタン製の棒の打撃を避けたり、バランスをとって渡るシーソー一本橋を難なくこなし、黄川は50メートルうんていや重量挙げの種目をクリアした。
「あ、そろそろ終わりだ」
ゴールの文字を見つけて、赤田が呟くと、青木はそれまで疲労困ぱいしていたにも関わらず駆け出した。その後姿は結局24もの罠に引っかかったので、ぼろぼろだ。青いゼッケンには白い粉やら、泥や草がついている。
「終わりだー! やっと終わりー!」
叫びながら、ゴールテープを切った直後、
「ぎゃー!」
最後の罠、単純な蓋もしていない落とし穴に青木はおっこちたのであった。
「全く……まあ、今日の目的は果たしたからいいけど」
「そうだね! 早く引っ張り上げて終わりにしよっ」
そうして、二人は落とし穴の中で凹む青木を引っ張り上げて、訓練を終了した。
「実は家族を呼んであるんだ〜」
「楽しんできてくださいね。俺はこいつの面倒をみておきます」
視線の先にはベンチに寝転がり、ぐったりとした青木の姿があった。さすがにトラップの数が多くてきつかったようだ。しかし、あのトラップの数々はどこかで見たことがあるような気がした。考え込みながら、赤田はもう一度指令書を広げる。折りたたまれてくしゃくしゃになったその紙には、
『追伸:今回の訓練の目的は青木君のリアクションの幅を広げることです』
といつの間にか書き加えられていた。
「司令官殿は何者なんだろうかね……」
悪の組織『ブラック・サンダー』とのつながりもちょっぴり感じつつ、赤田は青木が目覚めるのを待つのだった。
次回 『か 枯れない花(前編)』
小さな山を造営して作ったそのアスレチックは、ハイキングコースもあるなかなか本格的なもので、多くの人でにぎわっていた。しかし、彼らがいるのは上級者用山道コースであり、人もまばらであった。道の脇には常緑樹が生い茂り、時折鳥の声が聞こえる。
「せんぱ〜い」
情けない声で話しかけるのは体育会系の熱血青年、青木であった。真っ青なジャージを着て、肩に白いタオルをかけ、小走りに駆け寄ってくる。
「なんだよ」
鬱陶しそうに振り向いたのは、赤いジャージを着た中肉中背の男、赤田であった。青木ほどではないにせよ、少し汗をかいている。青木が並走しているので、少しスピードを落として話を聞く様子をみせた。
「何で先輩は疑問を感じないんですかー!」
青木は空気を読まずに、疑問を投げかけた。放っておくといつまでも質問し続けるので、赤田は簡潔に答える。
「今日は訓練だって言ったろ?」
「いや、でもなんでアスレチック……? っていうか、たまの休みにこんなとこにー!」
「身体能力を高めるためだろ? しかもまだ、アスレチックの入り口にはついてない」
「先輩は、なんでそんなに正義の味方を受け入れてるんですか? そりゃあ、俺だって彼女もいないし、休日は暇ですけど! 何にも予定がなくて、暇ですけど! ちょっと暇すぎて切なくなったりしますけど!
……ってまだ入り口でじゃ……な、い?」
青木は額の汗を拭っている手を止めた。山林の道を走ること30分、決して体力に自信がないわけではないが、なれない山道に足が取られてだいぶ疲労も溜まってきている。アスレチックが訓練だというのは聞いているが、ウォーミングアップにしてはきつすぎやしないだろうか。
「二人とも、はーやーくー!」
そして、遥か前を行く黄色のジャージの男は三十路も越えた三児の父、黄川である。その小さな体にどんな体力があるのかと尋ねたくなるような速さで、山道を駆け上がっていっている。
「ここからは階段みたいだよー!」
笑顔で二人に手を振る黄川は、全く疲れた様子がない。童顔であるために、一番年下である24歳の青木よりも若く見える。
追いついた二人は、まるで足に羽が生えているかのような黄川の軽い足取りに驚きつつ、一路アスレチックの入り口を目指した。そして、300段ほどの階段を上りきった先に入り口があった。ふと辺りを見回して、青木は駐車場があるのを見つけた。
「ここまで、車でこれるんですか……?」
震える指先で車を指すと、黄川は屈託のないように見える笑顔で答える。
「そうだよ〜」
山道を走る必要などなかったのではないかと思うと、青木は座り込んでしまった。脱力した青木を見下ろす赤田も肩で大きく息をしている。驚くべきは黄川の体力といったところだろう。
「受付だけ済ませてくるよ」
そう言うと、黄川は受付で指定のゼッケンを三枚もらってきた。赤、黄、青であるのは言うまでもない。ゼッケンには、一般の人とは違い、正面と背中側、各々の右下に『SPECIAL』と目立つピンクの蛍光塗料で描かれていた。
三人はゼッケンをつけると、今日の本来の目的であるアスレチック訓練に入った。
「おお〜、本格派〜」
黄川が感心したのも無理はない。なぜなら、目の前に広がったのは、明らかに上級者用のアスレチックフィールドだった。傾斜の大きい木の坂を上らねばいけないらしい。
「あ、そうだ……俺、指令書を預ってるんだった」
呆けたように目の前のアスレチックを眺めている三人の内で最初に正気に戻ったのは、赤田だった。他の二人に聞こえるようにその内容を読み上げる。
「『罠の数は35。無事にクリアしてください。健闘を祈ります。
トラフィックレンジャー司令官X』」
手書きで書かれた指令書は達筆な行書体で書かれていた。しかも、和紙に筆。スーツを綺麗に着こなす若い男としては意外な特技があるものだと赤田は思った。
「罠……っていうかトラップありとはすごいねー」
あはは、と朗らかに笑う黄川とは対照的に青木は真っ青になっている。
「35ということは……俺と先輩で5つずつ。青木が25ってとこですかねぇ」
赤田がそっと耳打ちすると、
「そうだね。そんなもんでしょ」
と黄川も同意した。青ざめた青木は黄川の発言には気付かない。罠にかかることなら天下一、天性の才能をみせる彼に、先輩二人組はある意味期待している。
「えーっと、皆で頑張ればなんとかなりますよね!」
青木はいつまでも凹んでいても仕方ないと顔をあげた。赤田と黄川はそんな青木を見てにっこり笑い、背中を押した。
「え? ええ? えええ?」
前につんのめるようにして、青木はスタートのテープを切った。すると、空砲がなり、スタート地点のゲートについている赤いランプが点滅した。
「なんか非常事態ー!」
すると、急な坂の上から大きなボールが転がり落ちてきた。大玉転がしに使うような直径2メートルはあろうかというボールにたっぷりと入っているのは白い粉。
「頑張れよ」
「ファイトー」
無責任極まりない応援をしてから、赤田と黄川は被害の及ばない区域まで避難していた。近くにあった透明なビニール傘を差して、二人で青木を見守る。
「先輩ー、黄川さんー、どうしたらいいんですかね?」
二人が避難しているとは露ほども思わず、青木は助けを求める。しかし、
「なんでいないのー!!」
お約束のように、青木は坂を上る途中でボールの直撃をうけた。その瞬間、バランスを崩して下に落ちそうになる。必死で掴んだのは一本の紐。
「よかった……って、よくなーい!」
紐はボールについていた。ボールの中には白い粉が入っていた。ボールはくす玉のような構造だった。以上の事柄から次に起こることを予想しなさい(完答・10点)
「粉が振ってくるー!」
お約束のように青木は頭から白い粉をかぶり、坂から転げ落ちた。下にはまるで予想されていたように衝撃吸収のマットがあるので大きな怪我をすることはない。粉まみれの青木の上には転がってきたボールの半円部分がすっぽり覆いかぶさった。
「たーすーけーてー!」
叫ぶ青木に、赤田と黄川は職人芸を見るかのごとく感心した。
「あそこまで完璧なリアクションとれるのって中々いませんよね」
まだ舞い上がっている粉を見ながら、赤田は落ち着いてコメントをする。
「紐を引っ張って自爆だもんね。まず、ボールを避けないとこが凄いけど」
「じゃ、助けに行きますか」
「そだね〜」
舞い上がる粉が落ちつくのを待ってから、二人は青木の救出に向かった。よく見てみれば、白い粉にはラメのようなものが混ぜてあり、視覚的効果を上げるように工夫されていた。
「早く助けてくださいよー!」
「分かってるよ」
ボールを持ち上げて、赤田はすっかり白くなった青木を助け出した。残り34か、と考えているのは露ほども見せずに赤田は取っておきの笑顔で赤田を励ました。
「どんまい。頑張ろうじゃないか」
そうして、再び坂を上ればビー球を転がされて落ち、池の飛び石を渡ればお約束のように池ポチャ、落とし穴には一つ残らず落ち、上から落ちてくる金ダライは頭のてっぺんで受け、OXクイズでは特殊ゲルで出来た粘度の高い沼に飛び込んだ。すべて、パーフェクトなリアクションの青木に、赤田と黄川は何度吹き出しそうになっ
たことか分からない。ちなみに、赤田は通路の左右から出てくるウレタン製の棒の打撃を避けたり、バランスをとって渡るシーソー一本橋を難なくこなし、黄川は50メートルうんていや重量挙げの種目をクリアした。
「あ、そろそろ終わりだ」
ゴールの文字を見つけて、赤田が呟くと、青木はそれまで疲労困ぱいしていたにも関わらず駆け出した。その後姿は結局24もの罠に引っかかったので、ぼろぼろだ。青いゼッケンには白い粉やら、泥や草がついている。
「終わりだー! やっと終わりー!」
叫びながら、ゴールテープを切った直後、
「ぎゃー!」
最後の罠、単純な蓋もしていない落とし穴に青木はおっこちたのであった。
「全く……まあ、今日の目的は果たしたからいいけど」
「そうだね! 早く引っ張り上げて終わりにしよっ」
そうして、二人は落とし穴の中で凹む青木を引っ張り上げて、訓練を終了した。
「実は家族を呼んであるんだ〜」
「楽しんできてくださいね。俺はこいつの面倒をみておきます」
視線の先にはベンチに寝転がり、ぐったりとした青木の姿があった。さすがにトラップの数が多くてきつかったようだ。しかし、あのトラップの数々はどこかで見たことがあるような気がした。考え込みながら、赤田はもう一度指令書を広げる。折りたたまれてくしゃくしゃになったその紙には、
『追伸:今回の訓練の目的は青木君のリアクションの幅を広げることです』
といつの間にか書き加えられていた。
「司令官殿は何者なんだろうかね……」
悪の組織『ブラック・サンダー』とのつながりもちょっぴり感じつつ、赤田は青木が目覚めるのを待つのだった。
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