ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
| HOME |
を ヲトメゴコロ
「では、これは私からのお祝いです」
ルパートは、四人の前にウイスキーのロックを四つ置いた。
「これ、いつもはお店に出さない私の秘蔵品です」
そう言うと、自分のグラスにもウイスキーを注いで、片目をつぶってみせた。
「それでは、ブラック・サンダーの未来に!」
カーくんはそう言うとグラスを掲げた。
「「「「「乾杯!」」」」」
五人はグラスをぶつけ、琥珀色の液体を喉に流し込んだ。ルパートが店に出さない秘蔵のウイスキーと言うのも納得の、芳醇な香りと味に四人は驚いた。
「これは……?」
自分は酒についてまあまあ詳しい方だと思っていたシーホーサーは思わずルパートに尋ねた。やはり宇宙は広い、こんなにうまい酒がまだあるとは勉強不足だとただただ感心するばかりだ。
「秘密……と言うほどでもないんです。
我が家は代々酒屋でしてね。私の生まれ年のウイスキーなんですよ。この年のウイスキーで家に残った最後の一本なんです」
差し出されたウイスキーの瓶の製造年月日を見て、シーホーサーは絶句した。それでは、ルパートは、ルパートは……
「さ、開けたんだから、飲んでしまってくださいな」
ルパートはシーホーサーの次の言葉を待たずに、飲みかけのグラスに容赦なく継ぎ足した。気のせいでなければ、ダブルもとっくに過ぎている。八分目まで注がれたウイスキーはある意味迫力がある。
「え? ま、マスター? ちょ、ちょっと」
「今日は飲みましょう」
そう微笑まれて、シーホーサーは麦茶のような注がれ方をしたウイスキーを仰ぎ見て、グラスに口をつけた。どうせなら、今日は徹底的に酒の世界につかってしまおう。道連れにするべく、ゼリーフィッシャーに自分のグラスからウイスキーを強制的に分ける。
「え? 何すんのお前っ!」
「いいから、飲めよ〜」
うまい酒を飲むといつもより酔いが早いのかもしれないな〜と、頭はすっかり酔っ払いモード。正気のゼリーフィッシャーに絡んでやれ〜とシーホーサーは決めた。
ゼリーフィッシャーも確かに酒好きだが、かなり強い。ある程度の量までは、顔色も変わらなければ、言動も普通のままだ。限界を越えるといきなり寝てしまうが、飲んでいる間は迷惑をかけないタイプだ。
「蒼夜〜、一緒に飲んでくれよぉ〜」
「はいはい、お付き合いしますよ」
過去に何回もつき合わされているゼリーフィッシャーは大人しく付き合った方が後が楽なことを経験上知っている。拒否すると、泣く。そして、怒る。自分だけなら絡まれても構わないが、他の人に迷惑をかけるのも気が引ける。シーホーサーの気の済むまで付き合っても、ゼリーフィッシャーは潰れることがないとは思っている。
が、今日はこの幻の味とも言えるウイスキーはかなり効いてきている。限界までつき合わされないことを祈って、ゼリーフィッシャーは注がれた酒を飲んだ。
その一方、カーくんとシュリンパーは静かに飲んでいるようだった。
「あちらは盛り上がっていますね」
シュリンパーに話しかけるカーくんの頬は、ほんのり赤く染まっていた。潤んだ瞳には真っ赤になってしまったシュリンパーが映っている。シュリンパーはあまり酒に強くないが、絡むような酔い方をしない。
「そうですね……あ、一度妻に連絡しないと」
「奥様には昨日お会いしましたが、とても綺麗な方ですよね」
「はあ……ええっと……そうです」
シュリンパーは早紀が綺麗だということに異論はないので、肯定した。しかし、どうも照れくさくて背中が痒くなる。何とも恥ずかしくなって、誤魔化すように早紀の携帯に電話をかけた。
「あ、早紀さん? ……うん、今、異人館にいるよ。ちょっとお酒飲んでて、もう少し遅くなるから。……ああ、俺、話を受けることにしたよ。……そう? 後で詳しく話すよ。……また連絡するね。じゃあ」
携帯をかばんにしまうと、シュリンパーはカーくんが何か言うよりも早く口を開いた。カーくんに妻のことを聞かれると、どうしても惚気てしまいそうな気がする。酔っているとはいえ、それは勘弁して欲しい。
「え、えっと、カトルフィッシャーさんは誰かに連絡しなくてもいいんですか?」
「え?」
思いもかけない質問にカーくんは動揺した。
「親とか兄弟とか、恋人とか、大切な人に今日うまくいったのを伝えないんですか?」
シュリンパーは酔っていたから、この質問が出来た。そして、カーくんも酔っていたから、この質問を無視することが出来なかった。
「あ、その、ですね……」
いつになく歯切れの悪いカーくんの様子と『恋人』という単語で、酔っ払いとその付き添いが二人の周りに集まってきた。
「お〜、この色男ったら恋人に連絡も入れないの? 君は『ヲトメゴコロ』が分かってな〜い」
「おい、達也! ちょっと待て!」
カーくんに後ろから抱きつくシーホーサーを、慌ててゼリーフィッシャーは引き剥がす。力の入らないシーホーサーを後ろから抱きかかえて、仕方なくカーくんの隣の席に座らせた。肩を支えていないと、ひっくり返ってしまいそうなのでゼリーフィッシャーは気が気ではない。
「あのさぁ、仕事がうまくいったらさ、やっぱ心配させた相手を安心させてあげるべきでしょ? 最近、忙しくて構ってあげてないとかない? ねえ?
ちなみに俺が連絡入れないのは、うちには小さい子がいて、奥さんは寝かしつけているからだよ〜」
酔っ払いに悪意はない。悪意はないが、思慮もない。いつもは言わないようなことを言ってしまう。それは時として、その人の痛いところをついてくる。
「連絡くらい……しますよ」
酔っ払いとは言え、そう指摘されると、雷太の小さな悪戯が何も話さなかった自分への抗議ような気がしてきた。カーくんは、意を決して携帯電話を取り出し、メモリの一番最初に入っている番号へ電話をかける。。
「お、兄さん、ちゃんと電話するんだね〜。えらいえらい」
「達也……静かにしてろよ」
これじゃ、キャラクターが逆になっているよとゼリーフィッシャーは思った。茶化すのは俺の役割なのに、と。変なところで苦労性という意味で、ゼリーフィッシャーはシュリンパーに近いものがあるのかもしれない。
五コール鳴ったところで、カーくんの電話の相手は出たようだった。話しかける声はとても柔らかく、相手を大切にしているのが周りで聞いている三人にも伝わってくる。
「もしもし……起きていましたか? ……ええ、三人とも協力してくださることになりました。心配をかけてすみません。……え? ちょっとそれは……今日はお酒も飲んでいるので遅くなります。……ちゃんと、後で話しますよ。約束します。
それでは、おやすみなさい」
隣で聞き耳を立てている三人を睨みつけると、カーくんはかばんに携帯電話を滑り込ませた。
「何をしているんですか?」
手元にあったウイスキーを一口飲んで、カーくんは微笑んだ。氷の微笑だったが、スーパー酔っ払いのシーホーサーには効かない。意識のあるゼリーフィッシャーとシュリンパーは引きつった笑みを浮かべた。
「え〜、どんな子なの〜? っていうか、敬語で話してるの? なんか、聞こえてきたのは明るい感じの声だったよねー!」
聞きたくても聞けないことを酔っ払いは軽々と聞いてしまう。ひじでカーくんをつつくシーホーサーは怖いもの知らずだった。
「それは、秘密です」
そう言うと、ゼリーフィッシャー、シーホーサー、シュリンパーのグラスに酒をなみなみとついで微笑んだ。ルパートはおつまみを作りながら、そんな四人を楽しそうに見つめている。
「飲んでくださいね」
有無を言わさぬその声音をゼリーフィッシャーとシュリンパーは忘れられそうにない。しかし、二人のそれ以後の記憶は一切なく、気がついたときには各自の家のベッドの中であった。どうやって帰ったのか全く分からない。
そして、ぐでんぐでんになるまで飲んだシーホーサーは自宅に戻ることが出来ず、ゼリーフィッシャーのアパートのソファーに寝かされていた。
「昨日は飲んだんだっけ……?」
全く記憶のないシーホーサーはそう呟くと軽い二日酔いと戦いながら自宅に戻るのだった。
次回『わ 罠の数は35(番外編)』
ルパートは、四人の前にウイスキーのロックを四つ置いた。
「これ、いつもはお店に出さない私の秘蔵品です」
そう言うと、自分のグラスにもウイスキーを注いで、片目をつぶってみせた。
「それでは、ブラック・サンダーの未来に!」
カーくんはそう言うとグラスを掲げた。
「「「「「乾杯!」」」」」
五人はグラスをぶつけ、琥珀色の液体を喉に流し込んだ。ルパートが店に出さない秘蔵のウイスキーと言うのも納得の、芳醇な香りと味に四人は驚いた。
「これは……?」
自分は酒についてまあまあ詳しい方だと思っていたシーホーサーは思わずルパートに尋ねた。やはり宇宙は広い、こんなにうまい酒がまだあるとは勉強不足だとただただ感心するばかりだ。
「秘密……と言うほどでもないんです。
我が家は代々酒屋でしてね。私の生まれ年のウイスキーなんですよ。この年のウイスキーで家に残った最後の一本なんです」
差し出されたウイスキーの瓶の製造年月日を見て、シーホーサーは絶句した。それでは、ルパートは、ルパートは……
「さ、開けたんだから、飲んでしまってくださいな」
ルパートはシーホーサーの次の言葉を待たずに、飲みかけのグラスに容赦なく継ぎ足した。気のせいでなければ、ダブルもとっくに過ぎている。八分目まで注がれたウイスキーはある意味迫力がある。
「え? ま、マスター? ちょ、ちょっと」
「今日は飲みましょう」
そう微笑まれて、シーホーサーは麦茶のような注がれ方をしたウイスキーを仰ぎ見て、グラスに口をつけた。どうせなら、今日は徹底的に酒の世界につかってしまおう。道連れにするべく、ゼリーフィッシャーに自分のグラスからウイスキーを強制的に分ける。
「え? 何すんのお前っ!」
「いいから、飲めよ〜」
うまい酒を飲むといつもより酔いが早いのかもしれないな〜と、頭はすっかり酔っ払いモード。正気のゼリーフィッシャーに絡んでやれ〜とシーホーサーは決めた。
ゼリーフィッシャーも確かに酒好きだが、かなり強い。ある程度の量までは、顔色も変わらなければ、言動も普通のままだ。限界を越えるといきなり寝てしまうが、飲んでいる間は迷惑をかけないタイプだ。
「蒼夜〜、一緒に飲んでくれよぉ〜」
「はいはい、お付き合いしますよ」
過去に何回もつき合わされているゼリーフィッシャーは大人しく付き合った方が後が楽なことを経験上知っている。拒否すると、泣く。そして、怒る。自分だけなら絡まれても構わないが、他の人に迷惑をかけるのも気が引ける。シーホーサーの気の済むまで付き合っても、ゼリーフィッシャーは潰れることがないとは思っている。
が、今日はこの幻の味とも言えるウイスキーはかなり効いてきている。限界までつき合わされないことを祈って、ゼリーフィッシャーは注がれた酒を飲んだ。
その一方、カーくんとシュリンパーは静かに飲んでいるようだった。
「あちらは盛り上がっていますね」
シュリンパーに話しかけるカーくんの頬は、ほんのり赤く染まっていた。潤んだ瞳には真っ赤になってしまったシュリンパーが映っている。シュリンパーはあまり酒に強くないが、絡むような酔い方をしない。
「そうですね……あ、一度妻に連絡しないと」
「奥様には昨日お会いしましたが、とても綺麗な方ですよね」
「はあ……ええっと……そうです」
シュリンパーは早紀が綺麗だということに異論はないので、肯定した。しかし、どうも照れくさくて背中が痒くなる。何とも恥ずかしくなって、誤魔化すように早紀の携帯に電話をかけた。
「あ、早紀さん? ……うん、今、異人館にいるよ。ちょっとお酒飲んでて、もう少し遅くなるから。……ああ、俺、話を受けることにしたよ。……そう? 後で詳しく話すよ。……また連絡するね。じゃあ」
携帯をかばんにしまうと、シュリンパーはカーくんが何か言うよりも早く口を開いた。カーくんに妻のことを聞かれると、どうしても惚気てしまいそうな気がする。酔っているとはいえ、それは勘弁して欲しい。
「え、えっと、カトルフィッシャーさんは誰かに連絡しなくてもいいんですか?」
「え?」
思いもかけない質問にカーくんは動揺した。
「親とか兄弟とか、恋人とか、大切な人に今日うまくいったのを伝えないんですか?」
シュリンパーは酔っていたから、この質問が出来た。そして、カーくんも酔っていたから、この質問を無視することが出来なかった。
「あ、その、ですね……」
いつになく歯切れの悪いカーくんの様子と『恋人』という単語で、酔っ払いとその付き添いが二人の周りに集まってきた。
「お〜、この色男ったら恋人に連絡も入れないの? 君は『ヲトメゴコロ』が分かってな〜い」
「おい、達也! ちょっと待て!」
カーくんに後ろから抱きつくシーホーサーを、慌ててゼリーフィッシャーは引き剥がす。力の入らないシーホーサーを後ろから抱きかかえて、仕方なくカーくんの隣の席に座らせた。肩を支えていないと、ひっくり返ってしまいそうなのでゼリーフィッシャーは気が気ではない。
「あのさぁ、仕事がうまくいったらさ、やっぱ心配させた相手を安心させてあげるべきでしょ? 最近、忙しくて構ってあげてないとかない? ねえ?
ちなみに俺が連絡入れないのは、うちには小さい子がいて、奥さんは寝かしつけているからだよ〜」
酔っ払いに悪意はない。悪意はないが、思慮もない。いつもは言わないようなことを言ってしまう。それは時として、その人の痛いところをついてくる。
「連絡くらい……しますよ」
酔っ払いとは言え、そう指摘されると、雷太の小さな悪戯が何も話さなかった自分への抗議ような気がしてきた。カーくんは、意を決して携帯電話を取り出し、メモリの一番最初に入っている番号へ電話をかける。。
「お、兄さん、ちゃんと電話するんだね〜。えらいえらい」
「達也……静かにしてろよ」
これじゃ、キャラクターが逆になっているよとゼリーフィッシャーは思った。茶化すのは俺の役割なのに、と。変なところで苦労性という意味で、ゼリーフィッシャーはシュリンパーに近いものがあるのかもしれない。
五コール鳴ったところで、カーくんの電話の相手は出たようだった。話しかける声はとても柔らかく、相手を大切にしているのが周りで聞いている三人にも伝わってくる。
「もしもし……起きていましたか? ……ええ、三人とも協力してくださることになりました。心配をかけてすみません。……え? ちょっとそれは……今日はお酒も飲んでいるので遅くなります。……ちゃんと、後で話しますよ。約束します。
それでは、おやすみなさい」
隣で聞き耳を立てている三人を睨みつけると、カーくんはかばんに携帯電話を滑り込ませた。
「何をしているんですか?」
手元にあったウイスキーを一口飲んで、カーくんは微笑んだ。氷の微笑だったが、スーパー酔っ払いのシーホーサーには効かない。意識のあるゼリーフィッシャーとシュリンパーは引きつった笑みを浮かべた。
「え〜、どんな子なの〜? っていうか、敬語で話してるの? なんか、聞こえてきたのは明るい感じの声だったよねー!」
聞きたくても聞けないことを酔っ払いは軽々と聞いてしまう。ひじでカーくんをつつくシーホーサーは怖いもの知らずだった。
「それは、秘密です」
そう言うと、ゼリーフィッシャー、シーホーサー、シュリンパーのグラスに酒をなみなみとついで微笑んだ。ルパートはおつまみを作りながら、そんな四人を楽しそうに見つめている。
「飲んでくださいね」
有無を言わさぬその声音をゼリーフィッシャーとシュリンパーは忘れられそうにない。しかし、二人のそれ以後の記憶は一切なく、気がついたときには各自の家のベッドの中であった。どうやって帰ったのか全く分からない。
そして、ぐでんぐでんになるまで飲んだシーホーサーは自宅に戻ることが出来ず、ゼリーフィッシャーのアパートのソファーに寝かされていた。
「昨日は飲んだんだっけ……?」
全く記憶のないシーホーサーはそう呟くと軽い二日酔いと戦いながら自宅に戻るのだった。
次回『わ 罠の数は35(番外編)』
<<わ 罠の数は35(番外編) | ホーム | る ルパートさん出番です>>
Comments
Comment Form
Trackback
| HOME |


