ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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る ルパートさん出番です
「それでは、ルパートさん出番です」
「はい」
ルパートと呼ばれて返事をしたのは、異人館のマスターだった。サングラスの奥の瞳が笑っているの様に感じたのは気のせいではあるまい。
「スクリーンを下ろしますね」
そう言って、パソコンの画面を大き目のスクリーンに映し出し、流れているジャズの音量を落とした。
「ま、マスターもブラック・サンダーに入るの?」
ゼリーフィッシャーは驚いたように目を瞬かせた。好奇心で煌めく眼差しに、ルパートは苦笑して答える。
「いえ、そういうわけではないのですが……宇宙人のための会社を作ろうとなさったのは、長いこと店をやっていますが、カトルフィッシャーさんが初めてです。ですから、お手伝いをしようかと思いまして」
アナログなイメージのある異人館のマスターことルパートだったが、リズミカルにキーボードを叩いている。サングラスを外さないのは彼のポリシーなのだろう。サングラスにはディスプレイの光が反射している。
「いつ、マスターを口説いたのさ?」
「さあ?」
冗談交じりの言葉にカーくんは取り合わない。微笑まれたはずなのに、背筋がぞくっとしたのを断じてゼリーフィッシャーは認めたくない。
「……では、説明を始めますね」
三人の紙をめくる音が聞こえた。赤鉛筆を耳に挟むゼリーフィッシャーは競馬新聞を読む親父のようだが、真剣な顔をして書類に目を落としている。
「前にも申し上げましたが、私たちはこれから悪の組織『ブラック・サンダー』を宇宙人による会社を立ち上げたいと思います。正義の味方と対決し、日曜の朝の特撮ヒーロー枠に進出することが今のところの目標です。悪の組織と言っても、不特定多数の人に物理的、または精神的苦痛を与えることはしません。私たちは、犯罪者に
なりたいわけではないのですから。
そこで、悪の組織の活動だけをしていたのでは明らかに採算が取れません。そこで……これを見てください」
スクリーンの画面にはかなりポップな文字で、『ブラック・サンダー組織図』と書いてあった。総帥、参謀の下に特務、第一、第二部隊が書いてある。うすピンクの可愛い花柄の背景に、気まずそうに説明を聞く三人は視線を泳がせた。カーくんは、誰の仕業か直ぐに思い当たって脱力してしまった。しかし、即座に気を取り直す。
「では、どのような会社形態を考えているのかをご説明します。
悪事を働くのが特務部隊であるわけなんですが……第一、第二部隊が子会社としてブラック・サンダーの財政面で支えます。第一部隊は食品・化粧品と塗料や玩具を扱い、第二部隊は出版・ラジオ局を担当することになります」
カーくんがルパートに目で合図すると、画面が切り替わった。
「それでは、第一部隊から説明します。第一部隊の食品・化粧品部門と塗料・玩具部門に分かれています。食品衛生部門は化粧品の開発、それに食品は菓子を中心としていく予定です。造形部門は怪人の着ぐるみや撮影セット製作、それに『ブラック・サンダー』関連の玩具を追々担当してもらうことになると思います。二つの部門で
協力して共同開発などもあり得ますね……
食品・化粧品部門はシュリンパーさん、塗料・玩具部門はゼリーフィッシャーさんにお任せしたい」
「は?」
いきなりのことにシュリンパーは思考停止した。それは、何というか……
「事業を起こせって事?」
書類を恐ろしい勢いでめくりながら、ゼリーフィッシャーはカーくんに尋ねた。顔を上げようとしないのは、書類の内容を頭に入れていっているからだ。ただの一研究員で終わるはずだったのに、チャンスが降ってきた。今までは二世とはいえ、宇宙人であるが為に目立たないように暮らしてきたゼリーフィッシャーには願ったりの
話である。
「簡単に言うとそういうことです。もちろん、出資の当てはありますからご心配なく」
慌てふためくシュリンパーと黙々と書類を読み続けるゼリーフィッシャーを眺めて、カーくんはにっこりと微笑みかけた。
「後でもっと詳しくお話しましょう」
「あのですね。いきなり事業を起こせと言われても……」
カーくんに軽く肩を叩かれたシュリンパーはびっくりし過ぎて、言葉が続かない。リストラで肩を叩かれる方が、まだ心臓の負担は軽い。
「私が見込んだんですから、きっと平気ですよ。宇宙人だからといって遠慮することのない会社が私の理想なんです」
そう語るカーくんは胡散臭さを完璧に消し、理想に燃える爽やか青年を見事に演じている。ここでシュリンパーに不信感を持たせる訳にはいかない。
「そして、第二部隊」
ルパートは画面を切り替えながら、勧誘されている三人の様子を観察していた。三者三様の反応が微笑ましい。ルパートも、もう少し若ければと考えた。しかし、今はこの異人館を続けていくことが生きがいになっていて、新しいことを始めるわけにはいかないのだった。
「第二部隊は出版やラジオなどの担当。つまり広報のわけですが、これはシーホーサーさんにお任せしたいと思います。放送作家をなされているそうなので、きっと適性があるでしょう」
「あ、俺もやっぱやることあるのね。安心した」
自分のやることを言い渡されて、シーホーサーは少し安心した。ラジオ局を一つ任されるというのはなかなかやりがいがありそうで、今からわくわくする。
「そして、特務部隊というのは何でも屋のような活動を考えています。ここはとりあえず第一、第二が落ち着いてから始めます。たぶん、兼任してもらう方もいらっしゃる部署です」
カーくんは涼しい顔をして馬車馬のごとく働かせるということを宣言したわけだが、これから事業を起こさなくてはならない三人は、あまりよく聞いていなかった。シーホーサーとゼリーフィッシャーが特務部隊に入れられるのはこの二年後のことである。
「事業を起こす際のサポートはこちらが責任をもっていたしますし、出資も約束できます。宇宙人による会社なので、社内では原形で勤務することも可能です」
「マジで? 原形で勤務可能!?」
書類からようやく顔を上げたゼリーフィッシャーはカーくんの言葉を反復した。細い目を精一杯見開いたので、目の周りの筋肉が少し痛い。
「……嘘だ……」
そう言葉を漏らすと、シュリンパーはシーホーサーの前に置かれたウイスキーを一息で飲み干した。目の焦点が合っていない。
「おいおい、それは俺のだよ」
抗議するシーホーサーにゼリーフィッシャーは自分のウイスキーを変わりに差し出してやった。
「聞いてないみたいだよ」
おーい、と呼びかけて目の前でひらひらと手を振るゼリーフィッシャーにシュリンパーは気付かない。頭が左右に揺れているところを見ると、結構やばい気がする。
「ここに説明を聞きにきてくださっていると言うことは、少しは期待していいのでしょうか?」
三人の戸惑いを感じつつも、カーくんは問いかけた。自分に焦りがあるのは分かっている。でも、聞かずにはいられないのだ。
「一緒に頑張ってみませんかか?」
言い出したのは雷太だが、色々準備するうちに自分がこの『ブラック・サンダー』という組織を運営したくなっているのに気付いた。地球に不時着してから、雷太に拾われ、何一つ不自由なく黒田家で過ごしてきたカーくんだが、やはり宇宙人としての本能が疼く時があるのは否定できない。
「宇宙人なら、宇宙人としての自分を生かしてみたいと思いませんか?」
三人ではなく、それは自分への言葉だった。どこも作っていない素直なカーくんの言葉は今までのどの言葉よりも心に訴えかけた。
「そうだな、やってみようかな」
ここに来た時点でやる気ではあったんだけどな、とゼリーフィッシャー。
「実は奥さんには了承済みなんだよね」
事業を起こすとはおもわなかったけど、とシーホーサー。
「やって……みようかな」
少し自信はないけれどきっと頑張れる、とシュリンパー。
「ありがとうございます」
まず三人の人員確保に成功したカーくんはほっと一息ついたのだった。
次回『を ヲトメゴコロ』
「はい」
ルパートと呼ばれて返事をしたのは、異人館のマスターだった。サングラスの奥の瞳が笑っているの様に感じたのは気のせいではあるまい。
「スクリーンを下ろしますね」
そう言って、パソコンの画面を大き目のスクリーンに映し出し、流れているジャズの音量を落とした。
「ま、マスターもブラック・サンダーに入るの?」
ゼリーフィッシャーは驚いたように目を瞬かせた。好奇心で煌めく眼差しに、ルパートは苦笑して答える。
「いえ、そういうわけではないのですが……宇宙人のための会社を作ろうとなさったのは、長いこと店をやっていますが、カトルフィッシャーさんが初めてです。ですから、お手伝いをしようかと思いまして」
アナログなイメージのある異人館のマスターことルパートだったが、リズミカルにキーボードを叩いている。サングラスを外さないのは彼のポリシーなのだろう。サングラスにはディスプレイの光が反射している。
「いつ、マスターを口説いたのさ?」
「さあ?」
冗談交じりの言葉にカーくんは取り合わない。微笑まれたはずなのに、背筋がぞくっとしたのを断じてゼリーフィッシャーは認めたくない。
「……では、説明を始めますね」
三人の紙をめくる音が聞こえた。赤鉛筆を耳に挟むゼリーフィッシャーは競馬新聞を読む親父のようだが、真剣な顔をして書類に目を落としている。
「前にも申し上げましたが、私たちはこれから悪の組織『ブラック・サンダー』を宇宙人による会社を立ち上げたいと思います。正義の味方と対決し、日曜の朝の特撮ヒーロー枠に進出することが今のところの目標です。悪の組織と言っても、不特定多数の人に物理的、または精神的苦痛を与えることはしません。私たちは、犯罪者に
なりたいわけではないのですから。
そこで、悪の組織の活動だけをしていたのでは明らかに採算が取れません。そこで……これを見てください」
スクリーンの画面にはかなりポップな文字で、『ブラック・サンダー組織図』と書いてあった。総帥、参謀の下に特務、第一、第二部隊が書いてある。うすピンクの可愛い花柄の背景に、気まずそうに説明を聞く三人は視線を泳がせた。カーくんは、誰の仕業か直ぐに思い当たって脱力してしまった。しかし、即座に気を取り直す。
「では、どのような会社形態を考えているのかをご説明します。
悪事を働くのが特務部隊であるわけなんですが……第一、第二部隊が子会社としてブラック・サンダーの財政面で支えます。第一部隊は食品・化粧品と塗料や玩具を扱い、第二部隊は出版・ラジオ局を担当することになります」
カーくんがルパートに目で合図すると、画面が切り替わった。
「それでは、第一部隊から説明します。第一部隊の食品・化粧品部門と塗料・玩具部門に分かれています。食品衛生部門は化粧品の開発、それに食品は菓子を中心としていく予定です。造形部門は怪人の着ぐるみや撮影セット製作、それに『ブラック・サンダー』関連の玩具を追々担当してもらうことになると思います。二つの部門で
協力して共同開発などもあり得ますね……
食品・化粧品部門はシュリンパーさん、塗料・玩具部門はゼリーフィッシャーさんにお任せしたい」
「は?」
いきなりのことにシュリンパーは思考停止した。それは、何というか……
「事業を起こせって事?」
書類を恐ろしい勢いでめくりながら、ゼリーフィッシャーはカーくんに尋ねた。顔を上げようとしないのは、書類の内容を頭に入れていっているからだ。ただの一研究員で終わるはずだったのに、チャンスが降ってきた。今までは二世とはいえ、宇宙人であるが為に目立たないように暮らしてきたゼリーフィッシャーには願ったりの
話である。
「簡単に言うとそういうことです。もちろん、出資の当てはありますからご心配なく」
慌てふためくシュリンパーと黙々と書類を読み続けるゼリーフィッシャーを眺めて、カーくんはにっこりと微笑みかけた。
「後でもっと詳しくお話しましょう」
「あのですね。いきなり事業を起こせと言われても……」
カーくんに軽く肩を叩かれたシュリンパーはびっくりし過ぎて、言葉が続かない。リストラで肩を叩かれる方が、まだ心臓の負担は軽い。
「私が見込んだんですから、きっと平気ですよ。宇宙人だからといって遠慮することのない会社が私の理想なんです」
そう語るカーくんは胡散臭さを完璧に消し、理想に燃える爽やか青年を見事に演じている。ここでシュリンパーに不信感を持たせる訳にはいかない。
「そして、第二部隊」
ルパートは画面を切り替えながら、勧誘されている三人の様子を観察していた。三者三様の反応が微笑ましい。ルパートも、もう少し若ければと考えた。しかし、今はこの異人館を続けていくことが生きがいになっていて、新しいことを始めるわけにはいかないのだった。
「第二部隊は出版やラジオなどの担当。つまり広報のわけですが、これはシーホーサーさんにお任せしたいと思います。放送作家をなされているそうなので、きっと適性があるでしょう」
「あ、俺もやっぱやることあるのね。安心した」
自分のやることを言い渡されて、シーホーサーは少し安心した。ラジオ局を一つ任されるというのはなかなかやりがいがありそうで、今からわくわくする。
「そして、特務部隊というのは何でも屋のような活動を考えています。ここはとりあえず第一、第二が落ち着いてから始めます。たぶん、兼任してもらう方もいらっしゃる部署です」
カーくんは涼しい顔をして馬車馬のごとく働かせるということを宣言したわけだが、これから事業を起こさなくてはならない三人は、あまりよく聞いていなかった。シーホーサーとゼリーフィッシャーが特務部隊に入れられるのはこの二年後のことである。
「事業を起こす際のサポートはこちらが責任をもっていたしますし、出資も約束できます。宇宙人による会社なので、社内では原形で勤務することも可能です」
「マジで? 原形で勤務可能!?」
書類からようやく顔を上げたゼリーフィッシャーはカーくんの言葉を反復した。細い目を精一杯見開いたので、目の周りの筋肉が少し痛い。
「……嘘だ……」
そう言葉を漏らすと、シュリンパーはシーホーサーの前に置かれたウイスキーを一息で飲み干した。目の焦点が合っていない。
「おいおい、それは俺のだよ」
抗議するシーホーサーにゼリーフィッシャーは自分のウイスキーを変わりに差し出してやった。
「聞いてないみたいだよ」
おーい、と呼びかけて目の前でひらひらと手を振るゼリーフィッシャーにシュリンパーは気付かない。頭が左右に揺れているところを見ると、結構やばい気がする。
「ここに説明を聞きにきてくださっていると言うことは、少しは期待していいのでしょうか?」
三人の戸惑いを感じつつも、カーくんは問いかけた。自分に焦りがあるのは分かっている。でも、聞かずにはいられないのだ。
「一緒に頑張ってみませんかか?」
言い出したのは雷太だが、色々準備するうちに自分がこの『ブラック・サンダー』という組織を運営したくなっているのに気付いた。地球に不時着してから、雷太に拾われ、何一つ不自由なく黒田家で過ごしてきたカーくんだが、やはり宇宙人としての本能が疼く時があるのは否定できない。
「宇宙人なら、宇宙人としての自分を生かしてみたいと思いませんか?」
三人ではなく、それは自分への言葉だった。どこも作っていない素直なカーくんの言葉は今までのどの言葉よりも心に訴えかけた。
「そうだな、やってみようかな」
ここに来た時点でやる気ではあったんだけどな、とゼリーフィッシャー。
「実は奥さんには了承済みなんだよね」
事業を起こすとはおもわなかったけど、とシーホーサー。
「やって……みようかな」
少し自信はないけれどきっと頑張れる、とシュリンパー。
「ありがとうございます」
まず三人の人員確保に成功したカーくんはほっと一息ついたのだった。
次回『を ヲトメゴコロ』
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