ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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り 理由はたったひとつだけ
見た目より少し重いドアを開けて、シュリンパーは異人館へと足を踏み入れた。
「いらっしゃいませ」
カウンターの中にマスターが一人。席は七席ほどあって、奥へと続くドアが見えた。少し暗めの照明がなかなかいい雰囲気だ。
「おー、本当に来たぜ」
黒い髪の細身の男、ゼリーフィッシャーは隣の男に囁いた。
「俺もそうだけど、物好きだよなぁ」
ゼリーフィッシャーの隣の男、シーホーサーも呆れたように笑った。二人とも大きな声で話しているわけではないので、明らかにシュリンパーを待っていたと思われる二人の会話は店内に流れるジャズでかき消された。
カウンターに座っているのはゼリーフィッシャーとシーホーサーの二人だけだった。シュリンパーに声をかけた若い男の姿は見当たらない。出直すべきかと思い、曖昧に笑って踵を返した時に、不意に背後から声がかかる。
「間違ってないよ、お兄さん」
ゼリーフィッシャーは、少しくだけた調子で声をかける。明らかにシュリンパーの方が年上だが、気にした様子はない。
「俺たちも呼び出されたのさ」
そう言うとシーホーサーはちょっと首をすくめた。シュリンパーはこちらの男の方が話が通じそうだと判断してとりあえず話しかける。
「あの……それはどういう意味ですか?」
「ああ、聞いてないんだ。じゃあ、まず自己紹介するよ。俺は竜田達也……宇宙人の名前だとシーホーサー。隣にいる柄の悪い男は海月蒼夜。顔と合ってないし、ペンネームみたいな名前だけど一応本名。宇宙人名はゼリーフィッシャー。
俺たちは貴方と同じく、スカウトされた仲間ってわけ」
シーホーサーはちらりとゼリーフィッシャーを見やった。お前も何か言えよと目で訴えている。
「あのさ、名前負けは言わなくてもいいんじゃね?」
何はともあれ、それだけは抗議しようと思ったらしい。人に紹介されるのに、ペンネームみたいな名前だと言われたくはない。地球に移り住んだ時に初めて読んだ漫画の主人公の名前を、子供の名前につける親をちょっぴり恨んだ。
ゼリーフィッシャーは宇宙人ではあるが、地球でしか住んだことがない。両親の里帰りが宇宙旅行になる以外はあまり地球人とは変わらない。宇宙人であることよりもオリンピック選手であることの方が余程すごいだろ、とゼリーフィッシャーは常々思っている。
「『蒼夜』って顔じゃないじゃん」
他人にゼリーフィッシャーを紹介する時は、枕詞のように『ペンネームみたいな』『顔と合ってない』とシーホーサーは言ってしまう。本気で思っているわけではないが、反応が面白いのでついついからかってしまうのだ。
「じゃ、聞くけどさ、どんな顔だよ!」
「とりあえず美青年」
「…………」
「あれ? 身も蓋もない?」
「……分かっているんなら、言うなーっ!」
二人の漫才が終了したところを見計らって、シュリンパーは再び声をかける。どちらであっても、話が通じないような気がしてきた。
「あの……いいでしょうか? 竜田さんと海月さんも会社に誘われて、これから説明が行われるってことでいいんですよね?」
カウンターの上に置かれた書類の束に目を走らせて、これから説明がなされることを確認する。
「その通りだよ、お兄さん」
細い目をさらに細めて、ゼリーフィッシャーは肯いた。地味で冴えないサラリーマンは動揺していたのだろうと思いきや、話はしっかりと聞いていたらしい。
「やっと来たよ」
シーホーサーは異人館のドアの方を振り返って笑った。これから悪戯をしてやろうと思う子供の笑みだった。
「お待たせして申し訳ありません」
そこに現れたスーツ姿の美青年はカトルフィッシャーことカーくんであった。余程慌てていたらしく、少しネクタイが曲がり、髪の毛がはねている。はねているというよりも、誰かにかき乱されたのを無理矢理直したという感じがする。
「ああ、シュリンパーさんも来てくださったんですね」
服装の乱れには触れてくれるなと言外に圧力をかけながら、カーくんはシュリンパーを見て微笑んだ。
「はあ……」
「これから、お三方に新しい会社についての説明をします。
シュリンパーさんにはまだ資料を差し上げてなかったですね。これをどうぞ」
カーくんはカウンターに腰掛けると分厚い書類をシュリンパーに手渡した。
「どうも」
表紙を見て、うっかり取り落としそうになった。なぜならそこには、
「『有限会社ブラック・サンダー』?」
なんとも不思議な会社名が書いてあったからだ。これって、まるで……
「いやー、やっぱ悪の組織って感じがするよねぇ」
あはは、と笑いながらシーホーサーは言う。シュリンパーは典型的な悪の組織のような名前を家族に告げるのかと少し頭を抱えたくなった。ただでさえ、宇宙人による会社というだけでも珍しいのに、名前も不思議系なのか。しかし、『やっぱ悪の組織』とは此れ如何に。
「聞いただけで分かるとこがいいけどよ」
そんな問題じゃないとゼリーフィッシャーに突っ込みたくなった。聞いただけで分かる悪の組織? 本当に悪の組織なのか? シーホーサーとゼリーフィッシャーの発言を考え合わせれば、そういうことになる。
「悪の組織?」
うっかり漏らした言葉はしっかりとカーくんの耳に届いたようだった。
「ええ、読んでいただければ分かりますが……私たちがこれから始めるのは悪の組織です」
「…………」
「悪の組織として、戦隊ものの番組に出ることが私たちの目的です。もちろん、それだけでは会社は立ち行かないので、他の分野でも事業を起こします。そこで、貴方たちを呼んだ訳です」
出かけに雷太に抱きつかれて曲がったネクタイを直しつつ、シュリンパーの様子を確かめた。『悪の組織』に抵抗があったら、この話はなかったことにしなければならない。しかし、調査した結果、シュリンパーは逃したくはない人材だ。
「では、内容の説明に入ります」
カーくんは顔には出さないものの、明らかに焦っている。理由はたったひとつだけ……雷太の為に早く組織を整えたいのだ。
「一ページを開いてください」
必ずや三人をブラック・サンダーに入れてみせよう。そう決意して、カーくんは資料をめくった。
次回『ぬ ぬしは逃げた』
「いらっしゃいませ」
カウンターの中にマスターが一人。席は七席ほどあって、奥へと続くドアが見えた。少し暗めの照明がなかなかいい雰囲気だ。
「おー、本当に来たぜ」
黒い髪の細身の男、ゼリーフィッシャーは隣の男に囁いた。
「俺もそうだけど、物好きだよなぁ」
ゼリーフィッシャーの隣の男、シーホーサーも呆れたように笑った。二人とも大きな声で話しているわけではないので、明らかにシュリンパーを待っていたと思われる二人の会話は店内に流れるジャズでかき消された。
カウンターに座っているのはゼリーフィッシャーとシーホーサーの二人だけだった。シュリンパーに声をかけた若い男の姿は見当たらない。出直すべきかと思い、曖昧に笑って踵を返した時に、不意に背後から声がかかる。
「間違ってないよ、お兄さん」
ゼリーフィッシャーは、少しくだけた調子で声をかける。明らかにシュリンパーの方が年上だが、気にした様子はない。
「俺たちも呼び出されたのさ」
そう言うとシーホーサーはちょっと首をすくめた。シュリンパーはこちらの男の方が話が通じそうだと判断してとりあえず話しかける。
「あの……それはどういう意味ですか?」
「ああ、聞いてないんだ。じゃあ、まず自己紹介するよ。俺は竜田達也……宇宙人の名前だとシーホーサー。隣にいる柄の悪い男は海月蒼夜。顔と合ってないし、ペンネームみたいな名前だけど一応本名。宇宙人名はゼリーフィッシャー。
俺たちは貴方と同じく、スカウトされた仲間ってわけ」
シーホーサーはちらりとゼリーフィッシャーを見やった。お前も何か言えよと目で訴えている。
「あのさ、名前負けは言わなくてもいいんじゃね?」
何はともあれ、それだけは抗議しようと思ったらしい。人に紹介されるのに、ペンネームみたいな名前だと言われたくはない。地球に移り住んだ時に初めて読んだ漫画の主人公の名前を、子供の名前につける親をちょっぴり恨んだ。
ゼリーフィッシャーは宇宙人ではあるが、地球でしか住んだことがない。両親の里帰りが宇宙旅行になる以外はあまり地球人とは変わらない。宇宙人であることよりもオリンピック選手であることの方が余程すごいだろ、とゼリーフィッシャーは常々思っている。
「『蒼夜』って顔じゃないじゃん」
他人にゼリーフィッシャーを紹介する時は、枕詞のように『ペンネームみたいな』『顔と合ってない』とシーホーサーは言ってしまう。本気で思っているわけではないが、反応が面白いのでついついからかってしまうのだ。
「じゃ、聞くけどさ、どんな顔だよ!」
「とりあえず美青年」
「…………」
「あれ? 身も蓋もない?」
「……分かっているんなら、言うなーっ!」
二人の漫才が終了したところを見計らって、シュリンパーは再び声をかける。どちらであっても、話が通じないような気がしてきた。
「あの……いいでしょうか? 竜田さんと海月さんも会社に誘われて、これから説明が行われるってことでいいんですよね?」
カウンターの上に置かれた書類の束に目を走らせて、これから説明がなされることを確認する。
「その通りだよ、お兄さん」
細い目をさらに細めて、ゼリーフィッシャーは肯いた。地味で冴えないサラリーマンは動揺していたのだろうと思いきや、話はしっかりと聞いていたらしい。
「やっと来たよ」
シーホーサーは異人館のドアの方を振り返って笑った。これから悪戯をしてやろうと思う子供の笑みだった。
「お待たせして申し訳ありません」
そこに現れたスーツ姿の美青年はカトルフィッシャーことカーくんであった。余程慌てていたらしく、少しネクタイが曲がり、髪の毛がはねている。はねているというよりも、誰かにかき乱されたのを無理矢理直したという感じがする。
「ああ、シュリンパーさんも来てくださったんですね」
服装の乱れには触れてくれるなと言外に圧力をかけながら、カーくんはシュリンパーを見て微笑んだ。
「はあ……」
「これから、お三方に新しい会社についての説明をします。
シュリンパーさんにはまだ資料を差し上げてなかったですね。これをどうぞ」
カーくんはカウンターに腰掛けると分厚い書類をシュリンパーに手渡した。
「どうも」
表紙を見て、うっかり取り落としそうになった。なぜならそこには、
「『有限会社ブラック・サンダー』?」
なんとも不思議な会社名が書いてあったからだ。これって、まるで……
「いやー、やっぱ悪の組織って感じがするよねぇ」
あはは、と笑いながらシーホーサーは言う。シュリンパーは典型的な悪の組織のような名前を家族に告げるのかと少し頭を抱えたくなった。ただでさえ、宇宙人による会社というだけでも珍しいのに、名前も不思議系なのか。しかし、『やっぱ悪の組織』とは此れ如何に。
「聞いただけで分かるとこがいいけどよ」
そんな問題じゃないとゼリーフィッシャーに突っ込みたくなった。聞いただけで分かる悪の組織? 本当に悪の組織なのか? シーホーサーとゼリーフィッシャーの発言を考え合わせれば、そういうことになる。
「悪の組織?」
うっかり漏らした言葉はしっかりとカーくんの耳に届いたようだった。
「ええ、読んでいただければ分かりますが……私たちがこれから始めるのは悪の組織です」
「…………」
「悪の組織として、戦隊ものの番組に出ることが私たちの目的です。もちろん、それだけでは会社は立ち行かないので、他の分野でも事業を起こします。そこで、貴方たちを呼んだ訳です」
出かけに雷太に抱きつかれて曲がったネクタイを直しつつ、シュリンパーの様子を確かめた。『悪の組織』に抵抗があったら、この話はなかったことにしなければならない。しかし、調査した結果、シュリンパーは逃したくはない人材だ。
「では、内容の説明に入ります」
カーくんは顔には出さないものの、明らかに焦っている。理由はたったひとつだけ……雷太の為に早く組織を整えたいのだ。
「一ページを開いてください」
必ずや三人をブラック・サンダーに入れてみせよう。そう決意して、カーくんは資料をめくった。
次回『ぬ ぬしは逃げた』
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