ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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ブラック・サンダー物語(10)
「交通ルールをやぶってやれ!」
小海老君の号令で待機していたプランクトニアンたちは一斉にささいな嫌がらせレベルの悪事を開始した。
「きーっ」
「ききっ」
いつの間にか学ランとセーラー服に着替えたプランクトニアン二人組は、荷台付きの自転車で二人乗りを始めた。もちろんセーラー服の方が荷台に横座りして、学ランの腰に手を回している。一昔前の青春ドラマのようだ。
「きーっ」
また、他の所ではプランクトニアンが横断歩道の指導員が使用する旗を『ぶらっく・さんだー』というロゴ入りのものにしている。文字はやけに達筆な行書体だ。旗の縁には光を反射する布が付いていて、なかなか機能的だ。
「きーっ!」
青春ちゃりんこ二人乗りの所に、第二のセーラー服が現れて、ちょっとした修羅場になっていた。方向性が何か違って来ている。
「なんて酷いことを!」
ようやく目覚めたブルーは、起き上がって叫んだ。彼は、下っ端戦闘員との戦いでは全く役に立たなかったので、気を失ってもらっていた。しかし、彼には彼の役割がある。
「悪事は俺たちが許さない!」
そう、状況把握の下手なブルーだけが無理矢理、場面転換となるような台詞を叫べるのだ。レッドやイエローならささいな悪事などには気にもかけない。
「起きたか」
「はいっ! 大丈夫でありますっ!」
先程の失敗を取り替えそうと必死のブルーにイエローは悪意もなく、
「寝ててくれた方がよかったのにー」
と切り捨てた。
「うっ」
ブルーは涙目だ。しかし、正義の味方は泣いてはいけない。と、いうよりも仮にも社会人の男が泣くのは鬱陶しいことこの上ない。
「起きているのなら、働けよ」
いたわり指数0の言葉をレッドが投げ掛ける。ここまで大事にされないのは可哀相だとプランクトニアンたちはブルーに哀れみの眼差しを向ける。
「そんな目で見るなぁっ!」
無意味に手を振りながらブルーは後ずさった。石に躓いて、後ろから倒れ込み、後頭部を地面に強か打ち付ける。今度は人為的なものではないので、当分目を覚ますことはないだろう。親切なプランクトニアンがたんこぶを氷嚢で冷やし、頭の下に敷くものを用意している。
「交通整理ホイッスルで対応ですかね」
「それが一番妥当なんじゃない?」
レッドとイエローは顔を見合わせて、同時に笛を取り出した。ブルーの方をちらっと見て、世話をしてくれているプランクトニアンたちに軽く会釈してから、馬鹿馬鹿しい悪事を繰り広げる現場に向かった。
――――ピピーッ!
「前ならえっ」
プランクトニアンたちは思わず整列してしまう。よく訓練されている。
「赤信号のときは渡らないで下さい」
尚も渡ろうとするプランクトニアンたちを上手に整理しながら、レッドは声をかける。走り出そうとする団体を落ち着かせ、まとめることが出来るのは、レッドが全く動揺からだろう。学生時代にイベントスタッフのバイトをしていた経験も大いに役に立っている。
「危ないですからね」
『ぶらっく・さんだー』と書き換えられた交通指導員の旗を持ち、信号が青になったのを確認してプランクトニアンを誘導する。横断歩道からはみ出さないように手際よく指示を出されて、うっかりプランクトニアンたちは従ってしまったようである。
ちなみに、古かった旗を一新してもらったので、付近の住民はブラック・サンダーにお礼状を出すことになるが、それはまた別の話。
「は〜い、自転車の二人乗りは長野以外では禁止されてるんだよ〜」
一方、イエローは青春自転車二人乗りに声をかけている。自転車の定員は都道府県条令で決まっているので、青春の一ページとして世間的な認知があっても、条例違反には違いない。
「きーっ!」
「きしゃーっ!」
学ランプランクトニアンをセーラー服プランクトニアン一と二が争っている。学ランは困ったように二人を見つめておろおろするばかりで、このままだと血を見るかもしれない。
「喧嘩はやめてね〜」
イエローがにこにことしながら止めに入る。さりげなく、セーラー服一と二の間に割って入り、学ランを自分の後ろに保護する。
「二人とも、この学ラン君が好きなのは分かったからさ……落ち着いて近くのファミレスで話し合った方がいいよ、ね?」
にこっ笑って、荷台から降りようとしないセーラー服一に手を差し出した。子持ちの男とは思えないあどけない笑顔は乙女の心にクリーンヒットしたようだ。
「きー」
躊躇いつつも、セーラー服一はイエローの手に自分の手を重ね、荷台から降りた。戦闘員専用の全身タイツを着用しているために、顔色はよく分からない。
「じゃ、ファミレスまでは三人で歩いて行ってね。車に気をつけてね」
「「「きー」」」
三人がファミレスへ歩いて行くのを確認してから、イエローはレッドと合流した。
「だいたい片付いた?」
交通指導を終えたレッドにイエローは声をかける。
「ええ、何とか。そちらも片付いたみたいですね」
「あの位の年頃って難しいからねぇ」
苦笑したイエローは確かに父親の顔だった。
「では、仕上げにかかりますか」
「そうだね〜」
プランクトニアンたちの作戦は失敗し、残るは小海老君のみとなった。ちょっと縒れたフエルト生地に疲れが見える。
「こうなったら、俺が行くしかないか」
構えはなかなか堂に入っている。悪役たるもの、しっかり受身を取れなくてはいけない。そのため、小海老君は一通りの武道を学んでから、ブラック・サンダーに入社したのだ。
「二対一って卑怯ですよね」
ぼそっとレッドが呟く。
「でもさ、仕方ないよ。正義の味方は複数で悪役を袋叩きにしなきゃいけないんだから」
でも、ちょっと疑問には思うよね、とイエローも言う。小海老君は必死に聞こえない振りをした。聞いてはいけない。突っ込んではいけない。それが、戦隊もののお約束なのだから。
「ごちゃごちゃぬかすな!」
会話を強引に遮って、小海老君は叫んだ。
「青いのを返してやろう!」
せめて、最後くらいは三人そろえないとまずい。プランクトニアンたちにブルーをたたき起こさせた。ふらつくブルーの胸倉を掴み、ちゃんと戦えることを確認してから、やや乱暴にレッドとイエローの元に押しやった。
「返していただかなくても」
「う〜ん、足手まといだねぇ」
ブルーを返されることに疑問を感じながらも、レッドとイエローは一応三人揃ったので、決めポーズをとる。
「「「交通戦隊トラフィックレンジャー!」」」
レッドとイエローは特殊警棒を持って、小海老君に走り寄った。しかし、小海老君も流石に素手で戦うわけもなく大ぶりで装飾のやたらと多い剣をもっている。二人の攻撃を受け流して、振り返り、再び向き合う。
「やぁーっ!」
今度は掛け声をかけて、小海老君から襲い掛かる。狙いはレッド。二人同時などということは出来ないので、イエローからの攻撃は覚悟している。レッドは小海老君の剣を警棒で受け止める。冷静に戦局を考えつつ、小海老君をまっすぐ見返すレッドは戦うこと自体は嫌いではないようだった。
力のバランスをわざと崩されて、小海老君の重心が少し前に傾いた。そこを見逃さず、レッドは体を沈めて足払いをかけた。堪らずに小海老君は地面に膝をつく。
「くうっ」
イエローはレッドと小海老君の戦いに手を出さず、ただ見守っていた。本来なら、ここで参戦していなければならないのだが、二人の勝負を邪魔したくなかったのだ。
「先輩っ、とどめです!」
余計なところでブルーが叫ぶ。空気の読めないブルーをイエローはぶん殴りたい気持ちになった。しかし、もうそろそろ終わらせないといけないのも事実だ。
「レッド、仕方ないけど、やらないと」
「そうだね」
ちょっと心残りだが、仕上げをしないといつまでたっても終わらない。
「「「奥義・警察手帳ビーム!」」」
虹色に輝く光の束が三人の警察手帳からあふれ出し、小海老君へと襲いかかる。膨大なエネルギーが球状になって包み込み、空へと上っていく
「うわぁーっ!」
小海老君の悲鳴が響き渡る。ちょっと間抜けで、情けない声だが、捨て台詞は忘れない。
「覚えてろーっ! ブラック・サンダーは必ずやお前たちを倒してみせるっ!」
そうして、小海老君の姿は見えなくなった。
「終わりましたね」
「まだ続くみたいだね」
レッドとイエローは何だか後味の悪さを感じていたが、ブルーだけは晴れ晴れと笑っていた。なんだかまとまりの無い三人組ではあったが、彼らは街の平和を守るために奔走するのであった。
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小海老君の号令で待機していたプランクトニアンたちは一斉にささいな嫌がらせレベルの悪事を開始した。
「きーっ」
「ききっ」
いつの間にか学ランとセーラー服に着替えたプランクトニアン二人組は、荷台付きの自転車で二人乗りを始めた。もちろんセーラー服の方が荷台に横座りして、学ランの腰に手を回している。一昔前の青春ドラマのようだ。
「きーっ」
また、他の所ではプランクトニアンが横断歩道の指導員が使用する旗を『ぶらっく・さんだー』というロゴ入りのものにしている。文字はやけに達筆な行書体だ。旗の縁には光を反射する布が付いていて、なかなか機能的だ。
「きーっ!」
青春ちゃりんこ二人乗りの所に、第二のセーラー服が現れて、ちょっとした修羅場になっていた。方向性が何か違って来ている。
「なんて酷いことを!」
ようやく目覚めたブルーは、起き上がって叫んだ。彼は、下っ端戦闘員との戦いでは全く役に立たなかったので、気を失ってもらっていた。しかし、彼には彼の役割がある。
「悪事は俺たちが許さない!」
そう、状況把握の下手なブルーだけが無理矢理、場面転換となるような台詞を叫べるのだ。レッドやイエローならささいな悪事などには気にもかけない。
「起きたか」
「はいっ! 大丈夫でありますっ!」
先程の失敗を取り替えそうと必死のブルーにイエローは悪意もなく、
「寝ててくれた方がよかったのにー」
と切り捨てた。
「うっ」
ブルーは涙目だ。しかし、正義の味方は泣いてはいけない。と、いうよりも仮にも社会人の男が泣くのは鬱陶しいことこの上ない。
「起きているのなら、働けよ」
いたわり指数0の言葉をレッドが投げ掛ける。ここまで大事にされないのは可哀相だとプランクトニアンたちはブルーに哀れみの眼差しを向ける。
「そんな目で見るなぁっ!」
無意味に手を振りながらブルーは後ずさった。石に躓いて、後ろから倒れ込み、後頭部を地面に強か打ち付ける。今度は人為的なものではないので、当分目を覚ますことはないだろう。親切なプランクトニアンがたんこぶを氷嚢で冷やし、頭の下に敷くものを用意している。
「交通整理ホイッスルで対応ですかね」
「それが一番妥当なんじゃない?」
レッドとイエローは顔を見合わせて、同時に笛を取り出した。ブルーの方をちらっと見て、世話をしてくれているプランクトニアンたちに軽く会釈してから、馬鹿馬鹿しい悪事を繰り広げる現場に向かった。
――――ピピーッ!
「前ならえっ」
プランクトニアンたちは思わず整列してしまう。よく訓練されている。
「赤信号のときは渡らないで下さい」
尚も渡ろうとするプランクトニアンたちを上手に整理しながら、レッドは声をかける。走り出そうとする団体を落ち着かせ、まとめることが出来るのは、レッドが全く動揺からだろう。学生時代にイベントスタッフのバイトをしていた経験も大いに役に立っている。
「危ないですからね」
『ぶらっく・さんだー』と書き換えられた交通指導員の旗を持ち、信号が青になったのを確認してプランクトニアンを誘導する。横断歩道からはみ出さないように手際よく指示を出されて、うっかりプランクトニアンたちは従ってしまったようである。
ちなみに、古かった旗を一新してもらったので、付近の住民はブラック・サンダーにお礼状を出すことになるが、それはまた別の話。
「は〜い、自転車の二人乗りは長野以外では禁止されてるんだよ〜」
一方、イエローは青春自転車二人乗りに声をかけている。自転車の定員は都道府県条令で決まっているので、青春の一ページとして世間的な認知があっても、条例違反には違いない。
「きーっ!」
「きしゃーっ!」
学ランプランクトニアンをセーラー服プランクトニアン一と二が争っている。学ランは困ったように二人を見つめておろおろするばかりで、このままだと血を見るかもしれない。
「喧嘩はやめてね〜」
イエローがにこにことしながら止めに入る。さりげなく、セーラー服一と二の間に割って入り、学ランを自分の後ろに保護する。
「二人とも、この学ラン君が好きなのは分かったからさ……落ち着いて近くのファミレスで話し合った方がいいよ、ね?」
にこっ笑って、荷台から降りようとしないセーラー服一に手を差し出した。子持ちの男とは思えないあどけない笑顔は乙女の心にクリーンヒットしたようだ。
「きー」
躊躇いつつも、セーラー服一はイエローの手に自分の手を重ね、荷台から降りた。戦闘員専用の全身タイツを着用しているために、顔色はよく分からない。
「じゃ、ファミレスまでは三人で歩いて行ってね。車に気をつけてね」
「「「きー」」」
三人がファミレスへ歩いて行くのを確認してから、イエローはレッドと合流した。
「だいたい片付いた?」
交通指導を終えたレッドにイエローは声をかける。
「ええ、何とか。そちらも片付いたみたいですね」
「あの位の年頃って難しいからねぇ」
苦笑したイエローは確かに父親の顔だった。
「では、仕上げにかかりますか」
「そうだね〜」
プランクトニアンたちの作戦は失敗し、残るは小海老君のみとなった。ちょっと縒れたフエルト生地に疲れが見える。
「こうなったら、俺が行くしかないか」
構えはなかなか堂に入っている。悪役たるもの、しっかり受身を取れなくてはいけない。そのため、小海老君は一通りの武道を学んでから、ブラック・サンダーに入社したのだ。
「二対一って卑怯ですよね」
ぼそっとレッドが呟く。
「でもさ、仕方ないよ。正義の味方は複数で悪役を袋叩きにしなきゃいけないんだから」
でも、ちょっと疑問には思うよね、とイエローも言う。小海老君は必死に聞こえない振りをした。聞いてはいけない。突っ込んではいけない。それが、戦隊もののお約束なのだから。
「ごちゃごちゃぬかすな!」
会話を強引に遮って、小海老君は叫んだ。
「青いのを返してやろう!」
せめて、最後くらいは三人そろえないとまずい。プランクトニアンたちにブルーをたたき起こさせた。ふらつくブルーの胸倉を掴み、ちゃんと戦えることを確認してから、やや乱暴にレッドとイエローの元に押しやった。
「返していただかなくても」
「う〜ん、足手まといだねぇ」
ブルーを返されることに疑問を感じながらも、レッドとイエローは一応三人揃ったので、決めポーズをとる。
「「「交通戦隊トラフィックレンジャー!」」」
レッドとイエローは特殊警棒を持って、小海老君に走り寄った。しかし、小海老君も流石に素手で戦うわけもなく大ぶりで装飾のやたらと多い剣をもっている。二人の攻撃を受け流して、振り返り、再び向き合う。
「やぁーっ!」
今度は掛け声をかけて、小海老君から襲い掛かる。狙いはレッド。二人同時などということは出来ないので、イエローからの攻撃は覚悟している。レッドは小海老君の剣を警棒で受け止める。冷静に戦局を考えつつ、小海老君をまっすぐ見返すレッドは戦うこと自体は嫌いではないようだった。
力のバランスをわざと崩されて、小海老君の重心が少し前に傾いた。そこを見逃さず、レッドは体を沈めて足払いをかけた。堪らずに小海老君は地面に膝をつく。
「くうっ」
イエローはレッドと小海老君の戦いに手を出さず、ただ見守っていた。本来なら、ここで参戦していなければならないのだが、二人の勝負を邪魔したくなかったのだ。
「先輩っ、とどめです!」
余計なところでブルーが叫ぶ。空気の読めないブルーをイエローはぶん殴りたい気持ちになった。しかし、もうそろそろ終わらせないといけないのも事実だ。
「レッド、仕方ないけど、やらないと」
「そうだね」
ちょっと心残りだが、仕上げをしないといつまでたっても終わらない。
「「「奥義・警察手帳ビーム!」」」
虹色に輝く光の束が三人の警察手帳からあふれ出し、小海老君へと襲いかかる。膨大なエネルギーが球状になって包み込み、空へと上っていく
「うわぁーっ!」
小海老君の悲鳴が響き渡る。ちょっと間抜けで、情けない声だが、捨て台詞は忘れない。
「覚えてろーっ! ブラック・サンダーは必ずやお前たちを倒してみせるっ!」
そうして、小海老君の姿は見えなくなった。
「終わりましたね」
「まだ続くみたいだね」
レッドとイエローは何だか後味の悪さを感じていたが、ブルーだけは晴れ晴れと笑っていた。なんだかまとまりの無い三人組ではあったが、彼らは街の平和を守るために奔走するのであった。
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