ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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ブラック・サンダー物語(9)
「はーはっはっはっ」
平和な街に響き渡る邪悪な笑い声。
「悪の組織『ブラック・サンダー』が地球を支配してくれるわ!」
脈絡もなく、そして誰に向かってでもなく怪人は叫ぶ。地球の支配宣言は開会宣言のようなものなので、必ずシリーズ開始時にはしなくてならない(悪役基本法第二十条)本当に支配下に置きたいと思っているならば、水面下でことを運ぶ方が余程効率がよいに決まっている。
「まずは、信号無視をして交通規則をやぶってやれ!」
怪人の号令で、プランクトニアンたちは赤信号の横断歩道を渡りだした。まさに「赤信号みんなで渡れば怖くない」といったところだろうか。
「いちに、いちに」
プランクトニアンはしっかりと隊列を組んで、一糸乱れぬ足並みだ。下っ端悪役おなじみの、全身タイツに身を包んでいるために、姿勢の良さが際立つ。
「待て待て待てーっ!」
岡っ引のような掛け声と共に現れたのは、若い警察官。どこと無く疲れが見てとれるが、そこは勢いでカバー。
「信号無視はいけませんよ」
「みんなの迷惑になるからねー」
後から駆け付けた二人は、状況を眺め遣ってのんびりとコメント。三人揃ったのを確認してから、怪人は思い出したように問い掛ける。
「お前達は誰だっ!」
そんなことを聞かず、不意打ちでやっつければよいだが、それは悪役の美学に反する。
「俺達は街の平和を護る『交通戦隊トラフィックレンジャー』です」
三人の中でリーダーと思しき男が口を開く。それ程やる気のなさそうなところが正義の味方らしくない。最初に来た若い男が「先輩、もっと元気よくやってくださいよ」と囁いている。
「「「チェンジ!」」」
三人の警察官は七色の光りに包まれ、ぴったりとした正義の味方の衣装に着替えていた。空気中の正義のエネルギーを体の表面に付着させているという説もあるが、真偽の程は定かではない。
「トラフィック・レッド」
落ち着いた声でトラフィック・レッドこと赤田停は告げた。中肉中背のあまり特徴もやる気も無いリーダーである。
「トラフィック・イエロ〜」
交通戦隊のイエローは女の子ではなく、三児の父親の黄川進だ。童顔ではあるが、三人の中では一番年長である。
「トラフィック・ブルー!」
三人の中で一番若く暑苦しいほどの熱血系、青木渡は声を張り上げた。決めポーズも一人でとっているが、ちょっと腰が引けている。
「何っ! 我らブラック・サンダーの邪魔をするのか!」
三人の変身を辛抱強く待って、怪人は声をかける。
「仕方があるまい、『第一部隊レディッシュブラウン・ヘイル所属のシュリンパー』が相手をしてやろう」
自分の名前を2重かぎ括弧……いや、画面の下のテロップに出してもらうために、シュリンパーは所属部隊と名前を強調した。第一回で負けたら、もう出ることは無いだろう。お父さんは頑張っているということを家族に伝えるためにも、ここだけはしっかり言っておかなくてはならない。
「第一部隊、海老茶色の雹所属の小海老君?」
イエローがぼそっと日本語訳。そもそも、戦隊もののターゲット層が海老茶色を理解できるのかどうかが謎だ。
「うるさいっ! 行け、プランクトニアンたち!」
プランクトニアンたちは一斉にトラフィック・レンジャー(略してトラレン)に襲い掛かった。キーキーという奇声を上げながら、ツーステップでやってくる姿は笑えるが、十五人ほどいるのでなかなか厄介だ。
「一人あたり、五人かな?」
レッドが二人にそうぼやくと、
「そうだね〜、何とかなるでしょ」
「ええっ、そんなぁ」
のん気なイエローとは裏腹にブルーはやたらとうろたえている。実はブルー、いい体をしている割に弱い。警察学校での護身術などの研修の成績は下から数えた方が早く、試験はいつもぎりぎりだった。喧嘩の経験はほぼゼロで、所謂見掛け倒しというやつだ。
「じゃ、行きますか」
流れるような動作で、足払いをかけてまず一人倒す。走りよってきたやつには立ち上がりながら鳩尾に当身を入れる。レッドは決して弱くない。
「頑張ろう〜」
にこにこ笑っているから、という理由でイエローに向かっていったプランクトニアンは見事な一本背負いを決められる。相手の勢いをそのまま使ったので、イエローは全く力を使っていない。信じられない思いで仲間を見つめているやつには、軽く首筋に手刀を入れて昏倒させる。これでレッド、イエローはノルマ二人達成。
「うわあーっ!」
ブルー一人だけが逃げ惑っていた。近づいてくるプランクトニアンとの間合いが分からず、間抜けな決めポーズのままだ。
「助けてーっ!」
仮にも正義の味方なのに、情けない。小海老君はこれ以上醜態を晒されては番組にならないので、部下たちにレッドとイエローの集中作戦を指示する。小海老君はブルーにそっと近づいて、ブラック・サンダー特製『象でも眠る超即効性睡眠スプレー』を吹きかけた。少しの間、フレームアウトしてもらう。
「きーっ!」
悪役は必ず掛け声をかけてから、襲い掛からなければならない。レッドは声の主との距離を読んで回し蹴りを放った。正確にプランクトニアンの側頭部を捉らえて、失神させる。体勢を整えて、次の敵に備えた。
「レッド、平気?」
イエローは後ろから駆け込んでくる敵に振り返りもせず肘鉄を入れる。胃の中のものがせりあがって来たが、悪役の下っ端たるもの情けなく倒れなくてはならない。見事なまでのプロ根性を見せてプランクトニアンは地面に倒れこむ。
「ききーっ!」
飛び掛かるプランクトニアンをイエローは身をよじってかわし、首筋に手刀をいれる。ノルマの半分は気絶させたが、そろそろ疲れてくる。
「レッド、そろそろ使っていい?」
「ここの戦闘シーンに時間はさけないので、仕方ないですよね」
二人は腰にさしていた特殊警棒を手にとった。
「「特殊警棒使用許可!」」
もしかしたら、戦隊ものではなくて良かったんじゃなかろうかと小海老君は思った。ブルーが全く活躍していない。二人でも十分事足りる。
「ぎゃーっ!」
「ぐぁーっ!」
「ひゃーっ!」
「きゃーっ!」
「うわーっ!」
「みゃーっ!」
「にゃーっ!」
次々とやられていく部下たちを見ながら、それって悲鳴じゃないよ! と心の中で突っ込んだ。とはいえ、個性があるのはいいことだ。
うかうかしていると、自分まで特殊警棒で昏倒させられてしまいそうなので、間合いを取って次の攻撃に出る。最初下っ端中ぱっぱ、最後の仕上げに強大化というのは戦隊もの三十分番組のお約束である。
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平和な街に響き渡る邪悪な笑い声。
「悪の組織『ブラック・サンダー』が地球を支配してくれるわ!」
脈絡もなく、そして誰に向かってでもなく怪人は叫ぶ。地球の支配宣言は開会宣言のようなものなので、必ずシリーズ開始時にはしなくてならない(悪役基本法第二十条)本当に支配下に置きたいと思っているならば、水面下でことを運ぶ方が余程効率がよいに決まっている。
「まずは、信号無視をして交通規則をやぶってやれ!」
怪人の号令で、プランクトニアンたちは赤信号の横断歩道を渡りだした。まさに「赤信号みんなで渡れば怖くない」といったところだろうか。
「いちに、いちに」
プランクトニアンはしっかりと隊列を組んで、一糸乱れぬ足並みだ。下っ端悪役おなじみの、全身タイツに身を包んでいるために、姿勢の良さが際立つ。
「待て待て待てーっ!」
岡っ引のような掛け声と共に現れたのは、若い警察官。どこと無く疲れが見てとれるが、そこは勢いでカバー。
「信号無視はいけませんよ」
「みんなの迷惑になるからねー」
後から駆け付けた二人は、状況を眺め遣ってのんびりとコメント。三人揃ったのを確認してから、怪人は思い出したように問い掛ける。
「お前達は誰だっ!」
そんなことを聞かず、不意打ちでやっつければよいだが、それは悪役の美学に反する。
「俺達は街の平和を護る『交通戦隊トラフィックレンジャー』です」
三人の中でリーダーと思しき男が口を開く。それ程やる気のなさそうなところが正義の味方らしくない。最初に来た若い男が「先輩、もっと元気よくやってくださいよ」と囁いている。
「「「チェンジ!」」」
三人の警察官は七色の光りに包まれ、ぴったりとした正義の味方の衣装に着替えていた。空気中の正義のエネルギーを体の表面に付着させているという説もあるが、真偽の程は定かではない。
「トラフィック・レッド」
落ち着いた声でトラフィック・レッドこと赤田停は告げた。中肉中背のあまり特徴もやる気も無いリーダーである。
「トラフィック・イエロ〜」
交通戦隊のイエローは女の子ではなく、三児の父親の黄川進だ。童顔ではあるが、三人の中では一番年長である。
「トラフィック・ブルー!」
三人の中で一番若く暑苦しいほどの熱血系、青木渡は声を張り上げた。決めポーズも一人でとっているが、ちょっと腰が引けている。
「何っ! 我らブラック・サンダーの邪魔をするのか!」
三人の変身を辛抱強く待って、怪人は声をかける。
「仕方があるまい、『第一部隊レディッシュブラウン・ヘイル所属のシュリンパー』が相手をしてやろう」
自分の名前を2重かぎ括弧……いや、画面の下のテロップに出してもらうために、シュリンパーは所属部隊と名前を強調した。第一回で負けたら、もう出ることは無いだろう。お父さんは頑張っているということを家族に伝えるためにも、ここだけはしっかり言っておかなくてはならない。
「第一部隊、海老茶色の雹所属の小海老君?」
イエローがぼそっと日本語訳。そもそも、戦隊もののターゲット層が海老茶色を理解できるのかどうかが謎だ。
「うるさいっ! 行け、プランクトニアンたち!」
プランクトニアンたちは一斉にトラフィック・レンジャー(略してトラレン)に襲い掛かった。キーキーという奇声を上げながら、ツーステップでやってくる姿は笑えるが、十五人ほどいるのでなかなか厄介だ。
「一人あたり、五人かな?」
レッドが二人にそうぼやくと、
「そうだね〜、何とかなるでしょ」
「ええっ、そんなぁ」
のん気なイエローとは裏腹にブルーはやたらとうろたえている。実はブルー、いい体をしている割に弱い。警察学校での護身術などの研修の成績は下から数えた方が早く、試験はいつもぎりぎりだった。喧嘩の経験はほぼゼロで、所謂見掛け倒しというやつだ。
「じゃ、行きますか」
流れるような動作で、足払いをかけてまず一人倒す。走りよってきたやつには立ち上がりながら鳩尾に当身を入れる。レッドは決して弱くない。
「頑張ろう〜」
にこにこ笑っているから、という理由でイエローに向かっていったプランクトニアンは見事な一本背負いを決められる。相手の勢いをそのまま使ったので、イエローは全く力を使っていない。信じられない思いで仲間を見つめているやつには、軽く首筋に手刀を入れて昏倒させる。これでレッド、イエローはノルマ二人達成。
「うわあーっ!」
ブルー一人だけが逃げ惑っていた。近づいてくるプランクトニアンとの間合いが分からず、間抜けな決めポーズのままだ。
「助けてーっ!」
仮にも正義の味方なのに、情けない。小海老君はこれ以上醜態を晒されては番組にならないので、部下たちにレッドとイエローの集中作戦を指示する。小海老君はブルーにそっと近づいて、ブラック・サンダー特製『象でも眠る超即効性睡眠スプレー』を吹きかけた。少しの間、フレームアウトしてもらう。
「きーっ!」
悪役は必ず掛け声をかけてから、襲い掛からなければならない。レッドは声の主との距離を読んで回し蹴りを放った。正確にプランクトニアンの側頭部を捉らえて、失神させる。体勢を整えて、次の敵に備えた。
「レッド、平気?」
イエローは後ろから駆け込んでくる敵に振り返りもせず肘鉄を入れる。胃の中のものがせりあがって来たが、悪役の下っ端たるもの情けなく倒れなくてはならない。見事なまでのプロ根性を見せてプランクトニアンは地面に倒れこむ。
「ききーっ!」
飛び掛かるプランクトニアンをイエローは身をよじってかわし、首筋に手刀をいれる。ノルマの半分は気絶させたが、そろそろ疲れてくる。
「レッド、そろそろ使っていい?」
「ここの戦闘シーンに時間はさけないので、仕方ないですよね」
二人は腰にさしていた特殊警棒を手にとった。
「「特殊警棒使用許可!」」
もしかしたら、戦隊ものではなくて良かったんじゃなかろうかと小海老君は思った。ブルーが全く活躍していない。二人でも十分事足りる。
「ぎゃーっ!」
「ぐぁーっ!」
「ひゃーっ!」
「きゃーっ!」
「うわーっ!」
「みゃーっ!」
「にゃーっ!」
次々とやられていく部下たちを見ながら、それって悲鳴じゃないよ! と心の中で突っ込んだ。とはいえ、個性があるのはいいことだ。
うかうかしていると、自分まで特殊警棒で昏倒させられてしまいそうなので、間合いを取って次の攻撃に出る。最初下っ端中ぱっぱ、最後の仕上げに強大化というのは戦隊もの三十分番組のお約束である。
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