ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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ブラック・サンダー物語(4)
「ああ、総帥がお見えになりましたね」
黒いマントを羽織った人物は、絨毯の右と左に見える黒い影たち目をくれることなく、玉座まで真っすぐに歩いていった。腰を下ろすと、なぜか膝の上に真っ白なペルシャ猫が乗っている。無駄な成金主義は、悪役のお約束だ。
「さて、皆の者。始めるか」
明らかにボイスチェンジャーを通したと思われるダミ声がスピーカーから聞こえてきた。このまま、悪質商法にあった被害者の電話相談をしても、声だけなら何の違和感もあるまい。
「今日は皆に大切な話がある」
総帥はペルシャ猫を撫でるのを止めて、玉座から立ち上がった。
「我らブラック・サンダーは全国ネットに進出する!」
大広間は一瞬水をうったように静まり返った。信じられない想いで、怪人たちは総帥を見つめた。
あの地獄のような特訓は無駄ではなかったのだと……ある者は「そんなことで全国が狙えるか!」と頭から水をかけられ、サーブの練習にいそしんだ日々、ある者はメジャーリーガー養成ギブスをつけて消える魔球の特訓をしたことを思い出していた。
「今やっている戦隊ものの後番の予定です。一応、二クールはやることになっています」
カーくんは驚いて口も塞がらない怪人達に、事務的に伝えた。怪人達もようやく実感が湧いて来たらしく、ところどころで歓声があがった。
「夢のようだ……」
感動でむせび泣く者も少なくはない。抱き合って跳びはねたり、胴上げをしたり……どこぞの大学の合格掲示板の前のようだ。感動の様子をビデオカメラに納めている者もいる。
「静かにして下さい」
カーくんの一言で大広間は再び静まり返った。カーくんに逆らえる者など、ブラック・サンダーにはいない。総帥だけが彼に命令を下すことができる。
「それでは、詳しい内容を私からお話します」
カーくんは周りの様子を全く気に留めることなく、新しく始まる特撮ものの概要説明を始めた。文章を読むときだけかけるフレームのない眼鏡がきらりと反射して、怪人達を不必要に怯えさせた。
「我々が戦う相手は『交通戦隊トラフィックレンジャー』です。彼等にダメージを与えるために、交通法規を乱して悪事を働くことになります」
『交通戦隊トラフィックレンジャー』とはまた、ブラック・サンダーにひけを取らないほどにひねりのないネーミングである。大方、交通課の警察官達によって構成されているのだろう。上からの命令に逆らえないのは、悪の組織でも正義の味方でも同じようである。
「なんだか、俺、正義の味方に同情しそうになったよ」
「お前も?」
怪人達はこれから戦うであろう交通戦隊にシンパシーを感じているようだった。しかし、悪の組織『ブラック・サンダー』は会社組織であるが、正義の味方は明らかに公務員である。このご時世に時間外労働のボランティアとは涙なくしては語れない。
(5)へつづく
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黒いマントを羽織った人物は、絨毯の右と左に見える黒い影たち目をくれることなく、玉座まで真っすぐに歩いていった。腰を下ろすと、なぜか膝の上に真っ白なペルシャ猫が乗っている。無駄な成金主義は、悪役のお約束だ。
「さて、皆の者。始めるか」
明らかにボイスチェンジャーを通したと思われるダミ声がスピーカーから聞こえてきた。このまま、悪質商法にあった被害者の電話相談をしても、声だけなら何の違和感もあるまい。
「今日は皆に大切な話がある」
総帥はペルシャ猫を撫でるのを止めて、玉座から立ち上がった。
「我らブラック・サンダーは全国ネットに進出する!」
大広間は一瞬水をうったように静まり返った。信じられない想いで、怪人たちは総帥を見つめた。
あの地獄のような特訓は無駄ではなかったのだと……ある者は「そんなことで全国が狙えるか!」と頭から水をかけられ、サーブの練習にいそしんだ日々、ある者はメジャーリーガー養成ギブスをつけて消える魔球の特訓をしたことを思い出していた。
「今やっている戦隊ものの後番の予定です。一応、二クールはやることになっています」
カーくんは驚いて口も塞がらない怪人達に、事務的に伝えた。怪人達もようやく実感が湧いて来たらしく、ところどころで歓声があがった。
「夢のようだ……」
感動でむせび泣く者も少なくはない。抱き合って跳びはねたり、胴上げをしたり……どこぞの大学の合格掲示板の前のようだ。感動の様子をビデオカメラに納めている者もいる。
「静かにして下さい」
カーくんの一言で大広間は再び静まり返った。カーくんに逆らえる者など、ブラック・サンダーにはいない。総帥だけが彼に命令を下すことができる。
「それでは、詳しい内容を私からお話します」
カーくんは周りの様子を全く気に留めることなく、新しく始まる特撮ものの概要説明を始めた。文章を読むときだけかけるフレームのない眼鏡がきらりと反射して、怪人達を不必要に怯えさせた。
「我々が戦う相手は『交通戦隊トラフィックレンジャー』です。彼等にダメージを与えるために、交通法規を乱して悪事を働くことになります」
『交通戦隊トラフィックレンジャー』とはまた、ブラック・サンダーにひけを取らないほどにひねりのないネーミングである。大方、交通課の警察官達によって構成されているのだろう。上からの命令に逆らえないのは、悪の組織でも正義の味方でも同じようである。
「なんだか、俺、正義の味方に同情しそうになったよ」
「お前も?」
怪人達はこれから戦うであろう交通戦隊にシンパシーを感じているようだった。しかし、悪の組織『ブラック・サンダー』は会社組織であるが、正義の味方は明らかに公務員である。このご時世に時間外労働のボランティアとは涙なくしては語れない。
(5)へつづく
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