ものぐさや
悪役が主役の『戦隊もの』小説
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ブラック・サンダー物語(1)
これは、ある悪の組織『ブラック・サンダー』の愛と涙と笑いの物語である。
諸君は、『ブラック・サンダー』を知っているだろうか? 日本語訳すると『黒い雷』。正に悪役という組織名は今時とても珍しく、国の無形重要文化財に登録されてもおかしくはない。幼稚園児をターゲットにした番組であっても、もう少しひねった名前を付けるだろう。貴方がボケでないのならば、「何でも横文字にすればかっこいいわけじゃねえ!」と突っ込んでいただきたいところである。
しかし、この典型的な悪の組織は日夜悪事を働き、日曜朝八時半からのヒーロータイムの枠を狙って本気で活動している。サラ金会社のポケットティッシュを何度ももらったり、掃除終了直後にバケツを倒したり、トイレに備え付けのトイレットペーパーを持っていったり、勝手に他人のジャージの袖を二十固結びしたり、黒板に相合傘を書いたり……世の中のちょっとムカつくレベルの悪事は八割方、彼らによってなされているのであった。
※ ※ ※
『ブラック・サンダー』は有限会社である。悪事を働くにも資金が必要なので、彼らは会社の形態をとっているのだ。悪の組織を運営するのも、楽ではない。初めは、近所の猫探しから、引越しの手伝い、果ては喧嘩の仲裁まで頼まれればなんでも引き受けていた。しかし現在は、食品・化粧品を扱う第一部隊、出版・ラジオ局を運営する第二部隊が子会社として運営され、利益を上げているので、何でも屋の利益が無いに等しくても経営は成り立っている。
「それでは、研究会を始めます」
毎週日曜朝八時半からの三十分間は必ず「悪事研究会」が開かれている。ただいま絶賛放映中の悪の組織から多くのことを学び取っているのだ。今までの戦隊ものの歴史も、もちろん必修科目であることは言うまでもない。
「先輩、やっぱ登場するときには肩で風切るように歩くべきなんですか?」
「いや、悪役の着ぐるみではあまり効果が無いよ。あれはさる筋の団体の人や怖いお兄さんがやるから、効果的なんだ。悪役の登場シーンは重量感を出すように歩くことが重要だね」
研修室ではテレビを見ながら、ウォーキングレッスンが行われている。先輩に積極的に質問しつつ頭に辞書を乗せて歩く新人を先輩が微笑ましく見守っている。辞書を落とさず歩けるようになると、第一段階を終了。辞書の上に水の入ったコップを置く第二段階に進む。日々の努力が立派な怪人を育てているのだ。
ここで、悪の組織はどこにあるのか不思議に思う方もいらっしゃるだろう。場所は宇宙ステーションでも海の底でも、火山のマグマのなかでもない。本部はとあるビルの地下にある。ビルの所有者はブラック・サンダーの支援者であり、ご好意で地下を貸してもらっている。ビルの裏口にはメンバー専用エレベーターがあり、同じビルに勤めている一般の会社員の皆さんとは顔を会わせないように努めている。
(2)へつづく
諸君は、『ブラック・サンダー』を知っているだろうか? 日本語訳すると『黒い雷』。正に悪役という組織名は今時とても珍しく、国の無形重要文化財に登録されてもおかしくはない。幼稚園児をターゲットにした番組であっても、もう少しひねった名前を付けるだろう。貴方がボケでないのならば、「何でも横文字にすればかっこいいわけじゃねえ!」と突っ込んでいただきたいところである。
しかし、この典型的な悪の組織は日夜悪事を働き、日曜朝八時半からのヒーロータイムの枠を狙って本気で活動している。サラ金会社のポケットティッシュを何度ももらったり、掃除終了直後にバケツを倒したり、トイレに備え付けのトイレットペーパーを持っていったり、勝手に他人のジャージの袖を二十固結びしたり、黒板に相合傘を書いたり……世の中のちょっとムカつくレベルの悪事は八割方、彼らによってなされているのであった。
※ ※ ※
『ブラック・サンダー』は有限会社である。悪事を働くにも資金が必要なので、彼らは会社の形態をとっているのだ。悪の組織を運営するのも、楽ではない。初めは、近所の猫探しから、引越しの手伝い、果ては喧嘩の仲裁まで頼まれればなんでも引き受けていた。しかし現在は、食品・化粧品を扱う第一部隊、出版・ラジオ局を運営する第二部隊が子会社として運営され、利益を上げているので、何でも屋の利益が無いに等しくても経営は成り立っている。
「それでは、研究会を始めます」
毎週日曜朝八時半からの三十分間は必ず「悪事研究会」が開かれている。ただいま絶賛放映中の悪の組織から多くのことを学び取っているのだ。今までの戦隊ものの歴史も、もちろん必修科目であることは言うまでもない。
「先輩、やっぱ登場するときには肩で風切るように歩くべきなんですか?」
「いや、悪役の着ぐるみではあまり効果が無いよ。あれはさる筋の団体の人や怖いお兄さんがやるから、効果的なんだ。悪役の登場シーンは重量感を出すように歩くことが重要だね」
研修室ではテレビを見ながら、ウォーキングレッスンが行われている。先輩に積極的に質問しつつ頭に辞書を乗せて歩く新人を先輩が微笑ましく見守っている。辞書を落とさず歩けるようになると、第一段階を終了。辞書の上に水の入ったコップを置く第二段階に進む。日々の努力が立派な怪人を育てているのだ。
ここで、悪の組織はどこにあるのか不思議に思う方もいらっしゃるだろう。場所は宇宙ステーションでも海の底でも、火山のマグマのなかでもない。本部はとあるビルの地下にある。ビルの所有者はブラック・サンダーの支援者であり、ご好意で地下を貸してもらっている。ビルの裏口にはメンバー専用エレベーターがあり、同じビルに勤めている一般の会社員の皆さんとは顔を会わせないように努めている。
(2)へつづく
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